第287話 海の民、和人魚族 1
メリュジーヌたちに近くの漁村まで送ってもらった
シャリンと二人で漁村へと足を踏み入れる。きっと長居はできないだろうからまずは物資の補給からだ。それから絶極大地行きの船があるか聞こう。
漁村の人々はよそ者の俺たちを何者だと見つめてくる。俺は漁師の一人に話しかけた。
「すいません、俺たち旅をしているのですがどこかに商店はないですか?食べ物と水とそれから寝袋とか」
「ああ、あっち側に店がいくつかあるけどあんたらの欲しいものが売ってるかわからないよ」
俺は礼をして教えてもらったほうへ向かった。確かに小規模ではあるが一応、一通りはそろえられそうだ。だが二人なので何度か往復しなれけばいけなくなりそうだ。
必死に荷物運びをしているとあっという間に日が暮れてしまった。小さな村が夕日色に染まってゆく。早いとこ終わらせて休みたい。一日中重いものを持って歩きっぱなしだったのでもうへとへとだ。失ったものは最低限そろえられたので明日、船について聞いてみよう。そのとき後ろのほうで男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「やっとつかまえたぞ堪忍しろこの泥棒め!」
何事かと振り返ると線の細い女の子が数名の漁師に捕まっている。きっと魚でも盗んだのだろう。普通はこう思ってお終いなのだがなぜだか俺は目線をそらすことができなかった。
彼女は上下赤い着物のような素材でつくられた水着を着ている。と言うのもその着物は上下でわかれており上は胸を隠すだけ、下はとても短いスカートのようなのだ。この漁村にこんな服を着ている人はだれもいない。背はそこそこ高く、短髪でほっそりとしておりまるで彼女だけ別の世界からきたように見える。
こんな女の子が果たして盗みなんてするのだろうか。
「ち、違います僕はなにもしていません。本当です、少しおこぼれをもらっていただけで」
「嘘つけ!何度もお前が船の近くに来ているのを見てるんだ」
男は強引に女の子の手を引いた。俺はなんだかかわいそうになり事情を聞いてみることにした。
「あの、この子がなにを盗んだのですか?魚ですか?」
「ええ?こいつが網を切っちまうせいで魚が全部逃げちまうんだよ、網まで台無しだ!」
どうやらこの子が網を切ってその魚を盗んでいる、と思っているようだ。しかしどうしても俺にはこの子がやっているとは思えないのだ。
「ほらいくぞ、今日という今日はゆるさねえからな!」
「待ってくださいその網ってどれですか?」
いろいろ聞いてくる俺に漁師の男たちは嫌そうに眉をひそめた。
「ハァーこれだよ。ほらここ、穴が開いてる。こっちもだ」
被害にあった網はどれも鋭い刃物で無理やり引き裂かれたような跡がある。網自体はとてもしっかりとした作りでこれを破るのには相当な力が要りそうだ。それにここから出した魚を彼女一人ですべて回収したのだろうか。
「この網を破るのには相当な大きさの刃物が必要ですね。持ち物を調べましたか?」
「えっあ、ああ、そうだな、おい凶器を出せ!」
それに対し彼女は持ってません、と小さな声で言った。