第286話 小さな漁村
カルベネの見張り役をセシリアにまかせることにした
翌日俺はレーミエとその家族に別れを告げた。みんなもう行ってしまうの?と寂しそうな表情を浮かべた。特に父親が残念そうな顔をしている。
「いやー残念だよ、こんなかわいい女の子たち久々で……あっでも君が一番だよもちろん」
そう言って妻のほうを見て苦笑いを浮かべた。
「じゃあ船を用意するから少し待ってて」
そんな夫婦をよそにレーミエと弟は船の用意をしにいった。俺たちもすぐ出発できるよう手早く荷物をまとめる。二人は救出されたときより少し大きめの船を二隻引いてきた。
「さあ乗って、近くの漁村まで連れて行くから」
彼女に促されそれぞれ船へ乗り込む。そこへカルベネが頭をかかえセシリアと共にやってきた。
「う~兄さん聞いてくれよ、こいつに頭をぶたれたんだまったくひどい女だ」
「あんたが二口目を飲もうとしたのが悪いんでしょ!」
俺は酒を少し買い、定期的に一口だけ飲ますようにセシリアに頼んだのだ。早速、見張りとしての役割を果たしてくれているようだ。
「ほら早く荷物を船に積んで」
「この傲慢なエルフ族め、私のことを奴隷のように扱うんだ。兄さんこいつ追い出してよ」
セシリアが剣の先でカルベネのけつをつついている。彼女にまかせて正解だった。
俺たちが乗った船が出発すると村の人が手を振って見送ってくれた。太鼓を叩いたり、水中で踊っている人もいる。地上ではわからないが大きなヒレを広げて泳ぐ様はとてもきれいだ。
二人が引いている船はどんどん川を下ってゆく。幅の広い川の端のほうで以前、奴隷商人が売っていた泳ぐ鳥がぷかぷかと浮かんでいる。翼の短いインコのような鳥たちはラッコのように木の実をおなかの上で割っている。近くの木から水中に落ちた実を拾っているようだ。なぜわざわざ飛べるのに水の中を選んだのかわからないが、狭い水槽の中にいたときよりずっと生き生きしている。
「あ、あの鳥はリバーフリッパー。私たちはフリッパーって呼んでるけどわざわざ泳ぐなんて変な鳥だよね。でもワニとは仲がいいみたいだよ、時々口の中を掃除してるんだ」
どうやら川で一番の捕食者とは仲良くやっているらしい。しばらく流れの緩やかな水にゆられていると密林が開けてきた。砂浜が現れ遠くには家も見える。
「ここがその漁村。近くにつけるからそこからは自分たちで行って」
そう言って船を砂浜の近くへと寄せてくれた。
「ありがとう、とても助かったよ」
「いえどういたしまして、ぜひまた私たちの村へ寄ってね。いつでも歓迎するから」
友好的な種族で本当によかったと思う。彼らの力なしではここまで来ることはできなかった。今ごろ密林で溺死しているだろう。俺たちが何度も礼を言った後、彼らは自分の家へ引き返していった。
俺は気を取り直して前を向いた。まず漁村に入る前に遠くから様子をうかがってみよう。仕事をしている漁師らしき人影が数名見える。ひとまずみんなを置いてシャリンと偵察に向かうことにした。