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第281話 素面に酔う者 1

泊めてもらう代わりに漁の手伝いをした亜李須川

 すぐに足元は生きのいい魚で埋まった。かなり気持ちが悪い上に重さで沈んでしまいそうだ。そんなことはお構いなしにレーミエの弟はぐいぐい桶を引いてゆく。


「結構取れたなーあんたも潜ってみる?」

「いや結構です、俺あんまり泳ぐの得意じゃないんだよ」


 すっかり日が落ち綺麗な星空が見えるようになった頃、ようやく村へと戻ってきた。俺は彼と一緒に魚を家まで運んだ。


「あーおかえり、これだけあれば大丈夫かな。そうだヒロヒロの友達はあっちで休んでいるから。一度足を洗ったほうがいいよ、魚くさいと嫌われちゃうから」


 そう言ってレーミエは笑ったがこの村に来てからもうずっと魚くさいのでなれてしまった。でも念のため足を水で洗っておいた。


 小屋は小さいが二つほど貸してくれたので野宿はしなくてすみそうだ。中に入るとみんなすっかり眠りについていた。俺も床に敷かれたラグに腰を下ろした。


 ゆっくりと背をつけまぶたを閉じようとしたときふとカルベネのことを思い出した。彼女はこの密林に入ってからなんだかおとなしくなった気がする。ちょっとすけべな事件が起っても全くの無反応だった。ただ疲れているだけならいいのだが。


 俺は重いからだを起こしもう一方の小屋を覗き込んだ。しかしそこにカルベネの姿はなかった。ヴェロニカのところかもしれないと思ったが彼女は窓の近くでタバコを吸っている。


「なあ、カルベネ知らないか?」

「さあな、外にいるんじゃないか?それかもう一方の小屋か」


 ヴェロニカにそう言われ小屋の裏手に回ってみた。そこにはいかだの端にしゃがみ込みじっと水面を見つめているカルベネの姿があった。


 声をかけようと思ったがなにやら様子がおかしい。よく見ると手の先が震えている。彼女はそれを押さえ込むようにもう一方の手でぎゅっとにぎりしめた。


「あの……カルベネ?大丈夫か?」


 そっと声をかけるとまるで不審者を見るような目つきでバッとこちらを振り返った。いつもの気楽な表情は消え目は何かにおびえるようにギョロリとしている。


「え、あ……ああ、大丈夫だ」


 それに返事もどこか上の空だ。とても正常だとは思えない。


「大丈夫じゃないだろ、熱でもあるのか?病気なら寝てなきゃだめだろ」


 もしかして水につかって風邪でも引いたのかもしれない。そう思い彼女の手を引こうとした時、俺の手を振り払うように後ろへと下がった。


「なあ本当に大丈夫か?なにか悪いもんでも食べたのか?魚が当たったのか?」

「だ、大丈夫だって言ってんだろ!私に近寄るな!」


 カルベネはふらつきながらどこかへ走って行ってしまった。このままでは水に落ちてしまうかもしれない。仕方なく俺は後を追うことにした。

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