第280話 熱帯の踊り子、メリュジーヌ族 3
助けてくれたメリュジーヌ族に村まで案内してもらった
辺りを散策していると小屋の裏手で先ほど助けてくれた女を見つけた。
「あっどうかした?」
「あのちょっとお願いがあって。しばらくここに泊めてもらえないかな?荷物もなくしちゃって」
手を合わせる俺に女はいいよ、と軽く答えた。
「使ってない小屋があったはず、あとで探して見るね。ところであなた名前は?あっ待って、えー人間でしょ……ソンペケ?」
「亜李須川 弘明ですけど」
どこからその名前が出てきたのか全く不明だが彼女は一人で笑っている。
「ハハハ、私はレーミエよろしくヒロヒロ」
レーミエは勝手にあだ名をつけると近くにある樽の中に手を伸ばした。
「そうだあなた後で弟の漁を手伝ってよ。ここにいるなら少しは働いてもらわないと。ピンポンが少なくなってきちゃった」
すると彼女は樽の中からでろっとした魚を取り出した。よく見ると俺が沼地で出会った丸いふぐのような魚だ。弱ってはいるがまだ生きている。
レーミエは大きな包丁を取り出すと近くにあるまな板の上で容赦なくさばきだした。ちょっとかわいそうな気もするが、というか味はいかほどなのだろうか。切った身を葉に包み蒸し焼きにするようだ。
「それピンポンていうんだ、俺来るとき見たよ」
「あ、本当?こいつらのろまだから捕まえやすいんだよね。でも潮が満ちたら泥の中に潜って行っちゃうから難しくなるけど。もう少しで出来上がるから仲間を呼んできたら?」
ごちそうしてくれるようなので言われたとおりみんなを呼んできた。ぞくぞくと彼女の家族も集まってくる。
「すいません、少しの間お世話になります」
俺が頭を下げると家族たちは笑顔で迎え入れてくれた。彼女の両親、それから兄弟だ。どこからか犬もやってきた。
「へえーあんたら大変だね。でもあのボアオーク倒せるくらいだからまあ平気なんだろうね」
白身魚の包み焼きを食べながらレーミエの弟が口を開く。ちなみにピンポンはあっさりとしているが脂身が多くうまみもあり結構おいしい。
「後でヒロヒロと漁に行って来てよ。その間にみんなの泊まる所探しとくから」
食事を終え、彼女の父親と弟に連れられ俺は漁の手伝いをすることになった。
「今潮が満ちてるのに明日じゃダメなのかなー。仕方ない潜って取るか」
なにやら小言を言っている弟に大きな桶のようなものに乗せられた。彼はそれを引きながら川へと出て行く。俺はひっくり返らないようにふちに掴まり、足をふんばった。
川へ出た後は潮が満ちた密林へと入ってゆく。木々の合間を縫いながらゆっくりと進む。
「そいじゃここらでするからワニに気をつけてな」
そう言い残して彼はよどんだ水の中へもぐって行った。辺りが急に静かになる。日も落ちてきてとても不気味だ。来る前にランタンを持たせてくれたがそれでもやはり怖さは変わらない。いつどこからワニが襲ってくるかわからない。
まるでホラーゲームをしているかのような嫌な寒気がする。もし戻ってこなかったかどうしよう、こんな場所で取り残されてしまったら。
弱気な俺とは裏腹にレーミエの弟は水から顔を出すと捕らえたピンポンをこちらに投げてきた。