第279話 熱帯の踊り子、メリュジーヌ族 2 (押絵あり)
メリュジーヌ族により無事全員、船によって救出された
しばらく川を上っていくと横側にくぼみがあり、その先が大きな池のようになっていた。そこには板をいくつも繋ぎ合わせた大きないかだのような村があった。木でできた浮島の上にはナーガに似た人々が暮らしている。遠目から見るとあまり違いははっきりしないが、良く観察すると皮膚が硬い鱗ではなく少しぬめりがある。なにより目に付くのは腰から生えた翼のような大きなヒレだ。尾の先端にもヒレがついている。
地上に上がっているときはぴったりと閉じているが水中ではそれを広げ、器用に泳ぎまわっている。色もきれいで熱帯魚を思わせる独特な色使いだ。周囲のメリュジーヌたちは手を止めこちらをじっと見つめている。
「さあ、到着。足元に気をつけて、何も無い場所だけどゆっくりしていって」
波は無いがいかだの上は濡れていて滑りやすく、水の上なので安定感がない。一箇所に集まったら沈んでしまいそうだ。
危険は去ったがここでまた新たな問題に気づいてしまった。荷物がほとんどないのだ。おまけに服も濡れている。かろうじて俺とシャリン、フィリアナあたりは無事そうだがそれでもきっと中身は水びだしだろう。
「ありがとう、とりあえず泥を落としたいんだけど。あとどこか干す場所があるといいな」
シャリンもこの事態に気づいたらしく苦い顔をしている。
「む……荷物をほとんど失ってしまったな。着替える服も濡れている。ここで新しいものが手に入るといいのだがな。一応今あるものを確認しておこう」
メリュジーヌの女はどこからかきれいな水を持ってきてくれた。だが桶に一杯分ほどしかなく全員の飲み水分にすらならない。これだけ水に囲まれているのにのどがカラカラだ。
「ねえあなたたち大丈夫?なにか必要なものとかある?まあ私たちで用意できればだけど」
俺たちを心配して先ほどの女がタオルを持ってきてくれた。
「えーっと少し待ってな、今確認して見るから」
「じゃあ私はご飯の用意してくるからまたね」
そう言うと女はスルスルとどこかへ走っていった。今ある荷物はお金と少しの着替えと非常食だ。これでは到底旅は続けられない。とりあえず少しこの村に滞在させてもらってその間に物資をそろえることにした。少なくとも今着ている服はきれいにしたい。
それをお願いするべく俺は女の後を追った。この種族は平和的なのかいたるところから笑い声が聞こえてくる。お互いくだらない冗談を言っては笑いあっているようだ。目の前を子供が団子状になりながら取っ組み合ってそのまま池へと落ちていった。それを犬が追いかけてゆく。
もし人間以外の種族になるならメリュジーヌも悪くないと思った。