第277話 気楽な救世主
水かさが増え気づいた時には引き返せなくなっていた
視界が上を向き口に泥水が流れ込んでくる。少し塩気を感じたがそれどころではない。
「ゴホッ、ワニ!ワニにつかまれた!だれか!」
俺はなりふりかまわず必死に叫んだ。このままではピヨとポリーンまで餌食になってしまう。足をばたつかせなんとか姿勢を保とうともがく。
そんな死にものぐるいな俺の背後から場違いな女の笑い声が聞こえてきた。だかれかが俺の滑稽な姿を見て笑っているのか?カルベネか?でもあきらかに声が違う。足もとになにかが通った感触がしたと同時に泥水の中から女が現れた。
「ハハハハ、なーにしてるのこんなところで」
健康的な肌色の若い女だ。長い髪を後ろで束ねている。彼女はこんな水の中でも全然平気そうに笑っている。
「な、なにっておぼれそうなんだけど」
俺の言葉を聞いて彼女はまた笑い出した。小ばかにしたような感じというよりめずらしいものを見つけたといった様子だ。
「ああーときどきいるんだよねここら辺でおぼれちゃう人。知らないで入ってきちゃった探険家とかさ」
そう言うと女は俺の腕からピヨとポリーンを取った。二人は不安そうな顔をしている。
「そんな重たい荷物背負って、ってか人数多くない?ちょっとさ近くの木に掴まっててよ、私船を取ってくるから」
彼女は二人を近くの木に寄せると水の中へと消えていった。俺はピヨとポリーン手を借りなんとか木に掴まることができた。辺りを見渡すとみんなすでに近くの木に避難することが出来ていたようだ。
少しして細いカヌーのような船が木の間を縫ってやって来た。先ほどの女が水の中から顔を出す。
「おまたせ、さあ乗って。でもこの人数はきびしそうだね」
「悪いんだけど先この二人を乗せてもらっていいかな。あとあそこにいるローレン」
ローレンはびしょぬれになりながら木にしがみついている。
「はーい了解、順番ねー」
女は二人を乗せるとボートを押してローレンの救出に向かった。それからセシリアとカルベネを救出しどこかへ連れて行った。
「彼女は一体だれなんでしょうか、水の中をすいすい泳いでいましたけど」
「わからない、人は良さそうだけど用心しなきゃね」
フィリアナとニーナが話をしていると再びボートを押して戻ってきた。俺は濡れた荷物とともにカヌーに乗り込んだ。体の大きなフィリアナは乗りにくそうにしている。
「ちょっとあたしは助けてくれないの?」
スルーされかけそうになってニーナが声をかける。すると女は不思議そうな顔をした。
「え、あなた泳げないの?トンカチなナーガもいるんだねえ。あっかなずちだった」
一人で突っ込みをいれて笑っている。なぜニーナだけそう思われたのだろう。この地域のナーガはみんな泳ぎが得意なのか?それともこの女がナーガなのかもしれない。
「別に泳げるけど、疲れただけよ」
ニーナは木からはずれるとカヌーのふちに掴まった。