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第276話 迫る濁流

泥水のせいでちょっとした事故が起きてしまった

 俺は泥まみれになった体を引きずりながらみんなの後に続いた。今回のはさすがに事故というか俺のせいじゃないのに……。そういえばカルベネが先ほど、いやボアオークと出会ったあたりからずっと静かな気がする。こういう下品なネタにだれより早くとびかかってくるのに今はうつろな目をしている。


「なあ、カルベネ大丈夫か?」

「え、ああ、ちょっときつくてね」


 さすがの彼女も過酷な環境にこたえているのだろう。暑さに加え泥に足をとられ一歩進むので精一杯だ。さらに腰の辺りまでのぼってきている水の抵抗もあり先ほどから全然進めていない気がする。


 ここで俺はある異変に気づいた。前にさほど進んでいないのに水がどんどんあがってきているのだ。腰まであった水かさは今や腹にまで差し掛かっている。俺は両腕にピヨとポリーンを抱きかかえた。まずい、これ以上水に入っていくのは危険かもしれない。いや違う、俺たちが入っていっているのではない、水がこちらに流れ込んできているのだ。


「おい、みんなちょっとこれまずくないか?引き返そう」


 俺の声にみんなが振り返る。だが気づいたときにはすでに遅く、水は異常なスピードで上がってきている。川が氾濫しているのか?雨も降っていないのに?頭上からエレナーゼの声が聞こえてきた。


「このままではみんな流れに飲まれておぼれてしまう、荷物を捨てて木にあがるかつかまって!」


 しかし荷物を降ろそうにも二人を抱えている状態では無理だ。なんとか地に足をつけようとするもぬかるんでいて滑ってしまう。


「ヒロさんしっかりしてください!今そちらに行きますから」


 フィリアナが必死な形相でにこちらに引き返してきた。


「ちょっとまって!みんな静かに落ち着いて動いて」


 木の上にいるエレナーゼの視線の先を見ると二つの茶色い目玉が水面からじっとこちらを覗いている。二つの目は俺たちのことを観察し終えたのかすっと水中に沈んでいった。


「わ、わわ、ワニ、ほら私言ったじゃない、なにかいるって」

「ローレンさん落ち着いて、ゆっくり引き返しましょう」


 パニックになるローレンをフィリアナがなだめる。背に乗っていたヴェロニカは降りて泳ぎだした。そのとき俺の足になにかぬめっとしたものが触れた。背筋に冷たい汗が流れる。今すぐに全力疾走して逃げ出したい。だがそれが逆効果なこともわかっている。いつ足にかみつかれるかわからない恐怖心とせりあがってくる水に胸を圧迫されながら重たい足を動かした。


 ついに水は胸元を超えあごにまで登ってきた。二人をかかえ荷物を背負ったままの俺は重りのようにどんどんと沈んでゆく。そういえばフィリアナはどこだ、先ほどから声は聞こえているが一向に助けがこない。


「アリスガワ、泳げ!沈んでしまう!」


 シャリンの声も聞こえる。狭くなってしまった視界に姿をとらえることができない。体の向きを変えようとした瞬間、なに者かに後ろから襟首をぐいっと引っ張られた。

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