第274話 泥まみれの魚
ボアオークたちにメリュジーヌ族の村に向かうように言われた
一日休息を取ったがやはり重たい荷物と行く手を阻む草のせいで思うように足が動かない。切ったそばから伸びているんじゃないかと思うほど植物が密集している。それに加え次第に地面がぬかるんできた。近くの川から浸水しているのだろうか?
進むにつれどんどんと水分は増えてゆき、柔らかくなった泥のせいで余計に動きづらい。身軽なエレナーゼは木の根を飛ぶようにして脚を汚さないようにしている。初めてライオンの体がうらやましく感じた。
「ね、あそこ見て!なんかいる!」
ピヨが突然立ち止まって前方を指差した。独特な形をした木の間からなにやら泥の中を飛び跳ねている丸い動物が見える。丸いというのは本当にまん丸で、まるで空気のぬけたボールのようにぷよぷよとしている。
近づいてみるとそれは魚のようで大きさはサッカーボールほどだ。陸に打ちあがったふくれたふぐ、という感じだ。ピヨは早速彼らを追いかけじめた。敵襲を受けたボール魚たちは散り散りになって逃げてゆく。
「あんまり泥のなかではしゃぐなよ、汚くなるだろ。それにその魚も危ないかもしれないぞ」
「へーきへーき、ほら捕まえた!」
ピヨは万遍の笑みで一匹を持ち上げた。よく見ると小さな目の上から触覚のようなものが生えている。魚はピヨの翼の間でばたばたと体を震わせ逃げていった。
「あっ逃げちゃった」
「そりゃそうだよ、うわっ羽が泥だらけじゃないか」
仕方が無いのでとりあえずタオルで泥を拭いておいた。その間にボール魚たちは泥の中へともぐりこむように木の隙間へと消えていった。
そこから先はさらに水かさが増え、ひざから下が見えなくなるとほど泥水があがってきている。本当にこっちの方向で合っているのだろうか。水の中が見えないせいで動きの鈍さに加え、なにが潜んでいるかわからないという恐怖心もでてくる。こんな密林の奥地だ、肉食の魚やワニがわんさかいてもおかしくない。
それに次の目的地まで一日でつく距離ではないのかもしれない。そうなった場合、俺たちは水の中で夜を明かさなくてはいけなくなる。水がひざを超えた辺りで俺はポリーンとピヨがはぐれないようにつかんだ。
「なあ本当にこれでいいのか?どんどん水が深くなってきている気がするんだけど」
「わたくしもそう思っていました。もしかすると途中で道を間違えたのかもしれませんね」
「それかあたしたち騙されたのかもよ」
ニーナが不機嫌そうに答えたときローレンが後ろのほうで変な声を上げた。
「い、今なんか私の脚にさ、触ったわ。も、もしかして、人食いワニかしら」
「あんたワニは全部肉食だけど。まあ、みんな気をつけて本当になにかいるかもしれないから」
ニーナの皮肉い対し、ぶつぶつと文句を言いながらもローレンは脚を上げて歩き出した。