第273話 ボアオークの村
故郷を忘れられないセシリアに別の生き方もあると言った亜李須川
俺は先を行くセシリアの後を追いかけた。
「それでどこでキャンプを張ったの?あまり顔は出したい気分じゃないけど荷物を置いてきたままだから」
「あーそれがさぁ、あの後ボアオークの仲間が来て今はそこで泊まらせてもらってるんだよね」
予想通り彼女は嫌そうに顔をしかめた。
「嘘でしょ、わざわざオーク殺しの犯人が自分から出向くなんてできるわけないじゃない。それに私そんなところ行きたくないんだけど」
そんなことを言われても仕方が無い。俺は一晩だけ我慢してもらうように説得した。結局近くまでは来たが、村には入らずに人でセシリア一人で野宿をすることになった。
俺がボアオークの村に戻るとみんなは端のほうでキャンプの準備をしていた。
「あ、ヒロさん見つかりましたか?」
「まあ一応、見つかったんだけどこの村に入ってくるのは嫌だって」
フィリアナを始めみんなもやはりそうか、という顔をしている。
「ところでわたくしこの先の進路について聞いてみたのですが、どうやらここから進んだところにメリュジーヌという種族が住んでいるようです。友好的な人たちみたいですので助けてくれるかもしれませんね」
そのメリュジーヌ族がどんな姿をしているのか全く想像できないがとにかく方向は決まった。目指すべき場所があればぐっと進みやすくなる。しかも幸運なことにボアオークからテントもいくつか借りられたので野ざらしで寝ずにすんだ。
翌日、魔術師の女と他のオークたちに泊めてもらった礼を伝えた。
「もう行くのかい?傷は大丈夫なの?そんなに急いでも体勢を整えていかないとこの先危ないよ」
「はいおかげさまで腫れもだいぶ引きましたので。それに食料もありがとうございます」
少しだけと食料と水も分けてもらったのだ。見た目はいかついがほとんどの人が善意的であるというのがわかった。俺は冒険者ではないのでどうしてあげることもできないが、このボアオークたちが意味無く襲われないよう願った。
村を出発して少し行ったところでセシリアと出会った。一人で残していくのを心配していたが杞憂だったようだ。戻ってきた彼女に対してみんな軽く挨拶するだけだった。一方セシリアのほうはなんだかあまり調子が優れない様子だ。
次の目的地へと進み始めたがやはりなんだか元気がない。いつもの気張った感じがないのだ。
「あのー大丈夫?」
「え?あっ別にどうかしたの?」
なんてことないという風だがどこか上の空だ。
「いやなんか元気なさそうだなって、もしかして虫にたくさん刺されたとか?」
寒い冗談を言う俺に彼女は小さくため息をもらした。
「そうね、それだったらいいけど。なんて言うかみんながったりしたでしょうね。私が純血じゃないってわかって」
セシリアは昨日のことをまだ引きずっているようだ。
「俺まだそのことについてみんなにはあまり話してないんだ。それに今さら言ったってなにか変わるわけじゃないだろ。セシリアはセシリアらしく鼻を高くしてればいいんじゃないか?」
「なによ、言ってくれるじゃない。私の鼻より短い剣使ってるくせに」
そう言うと俺を追い抜かしまたいつものように早足で歩き出した。