第271話 本当の姿
ボアオークの村へと案内されたがセシリアを忘れていたことに気がついた
まず初めに探す場所としては俺たちが休憩をとった岩の近くがいいだろう。もしかしたらそこに戻っているかもしれない。足元の草を避けつつ木の上に目線を向ける。肉食獣がいると言ったって葉が邪魔をしてなにも見えない。
岩場のところまで戻ってみたがそこに彼女の姿はなかった。そんなに簡単に見つかる分けない。俺はセシリアの名を呼びつつ辺りを散策することにした。目印の岩から離れないよう気をつけつつぐるぐると周りを回る。
鳥や獣の鳴き声がどこかから聞こえてくるだけで返事はない。ふと声を止めると近くから水の音が聞こえてきた。水音に導かれるまま進んでいくとそこには幅の広い川が流れていた。水もそんなに深そうではない。川原を見渡すとセシリアが一人で座っているのが見えた。
思わず声をかけようとして踏みとどまる。なんと言えばいいのだろうか。きっと怒っているに違いない、こちらが気軽に話しかけたら余計に悪化させてしまう。そういえばエレナーゼが以前ぼそっと言っていた。なぜそんなに焦っているのか、何かを恐れているとも言っていた。
俺からしたら恐れるというより自分の種族を侮辱され怒っているように見えたが。エルフ族は人一倍誇り高そうだ。とりあえず日が落ちる前に安全な場所につれていかなくてはならない。
「あなたまで私を笑いに来たの?」
俺が物陰でぐたぐたやっていたのがとっくにばれていたらしい。
「見つかってたのか、そりゃそうだよな」
セシリアはこちらを振り返って笑った。よほど俺の顔は腫れているらしい。もともとそんなに良くないのにこれ以上歪んでたら最悪だ。笑ってはいるが依然、緊張感は漂っている。どう話を切り出そう、彼女の話しやすい話題がいいのだが。
「そういえばセシリアが持っている剣て俺が持ってるのとは違うよな。えっとフィヨルドさんだっけ?同じような素材の剣を持っていたような」
「ああ、これ?そうあなたが持っている鉄の剣とはちょっと違う。まあ製法は極秘だから私も知らないんだけど」
川の水で洗われただろうきれいな刃を見せ、再び戻した。
「こんなに必死になって私って馬鹿みたいよね。あなたもそう思っているんでしょ」
俺はすぐに首を振って否定した。彼女は遠い目で水面を見つめている。
「私ね、本当は純血じゃないの。いわゆるハーフってやつ。エルフ族の誇りだのなんだの言ってるけど、私に言う資格なんてない。ね、馬鹿みたいでしょ」
彼女はずっとハーフであることを気にしていたのか?でもそんなの言わなければ俺たちはだれも気がつかなかった。
「私の両親は駆け落ちした。それでね、できた子供を面倒見切れなくなって捨てていった。無責任よね。それでも、こんな私をロンドーラル様やフィヨルド様はまるで他の子供たちと同じように扱ってくれた」
彼女は夕日で赤く照らされ始めた川をじっと見つめたまま話を続けた。
「特にフィヨルド様は私に人一倍力を入れてくれていた。だから私もがんばった。混血だからって負けたくなくって。でももう私のことなんて忘れて新しい弟子を見つけてる。だって他にできる子はたくさんいるんだもの」
彼女が今までいらだっていた理由、それはきっと早く帰りたかったからかもしれない。