第269話 密林の蛮族、ボアオーク 5
激怒したセシリアに逆襲にあうボアオークたち
エレナーゼの制止の声を無視しセシリアは刃を首に当てた。
「止めなさいって言っているのが聞こえないの?」
二度目の注意にさすがに手を止め顔を上げた。
「なんで止めるの?べつにこいつが死のうがあなたには関係ないじゃない」
「ええそうね、確かに。でもねすぐれた戦士っていうのは簡単には相手を殺さないものよ」
それにセシリアはフッと鼻で笑った。
「そんなことしてたら逃がした敵はいつかまた自分の首を取りに来る。そのとき後悔したってもう遅いんだから」
「何度来たって追い返せる。それに相手に情けをかけることも戦いの中では必要よ。あなたがやっていることはこいつらと変わらない蛮族がすること」
その言葉に余裕があったセシリアの表情が険しくなる。
「はぁ?こいつらと一緒にしないでくれる?次私を蛮族なんて呼んだらあなたがこうなること忘れないでよね」
彼女は剣をしまうと足でボアオークの頭を蹴飛ばしどこかへ行ってしまった。開放された男は腹をおさえながらよろよろと逃げていった。
「怒りは恐怖の裏返し、彼女は何を恐れているのかしら」
「それより今はこの火をどうするか考えないと」
ニーナの言うとおりエレナーゼの放った火種はいまやあたり一面に広がっている。このままでは密林全体が焼き尽くされてしまう。とりあえず今ある水で鎮火するしかない。
すると突然どこからか水が飛んできた。次々と火がシャワー状の水で消されていく。飛んできたほうに目をやるとボアオークの女が水を放っている。だが雰囲気がさきほどのやつらとは違う。少し歳をとっており落ち着いて知的な感じだ。
女は一通り消し終わると額の汗をぬぐった。
「ふう、こんなもんかね。ぼやがあったから来てみりゃとんでもないことになってるじゃないか」
これはまずい、仲間を殺されたことを知り攻撃してくるかもしれない。地面に倒れている二人の遺体を見て女はため息をついた。
「やれやれ、いつかこうなるかと思ったよ。あんたたち怪我はない?」
復讐どころかこうなることを知っていたかのようだ。
「えっと、俺たち襲われて、一応二人は見逃したんですけど」
「迷惑かけたね。こいつらはねここいらで悪さばかりしてた、うちの村でも鼻つまみ者さ。おかげで私たちみんなが悪いと思われてしまう。何度も注意したが聞かなくてね、一番小さい子がいただろ。その子は逃げたのかい?」
さきほどセシリアに殺されそうになっていたやつのことだろう。
「はい、でも腹を怪我していて」
「それならいいよ、それであの馬鹿も真っ当に生きる気になっただろ。ごめんね本当に悪いんだけどこの死体を運ぶのを手伝ってくれるかい?」
俺たちは重たい体を一緒に引きずっていくことになった。