第268話 密林の蛮族、ボアオーク 4
仲間の連携攻撃によりセシリアはボアオークの手から抜け出した
ピヨの爆発を受けたボアオークは息を荒げ腕を押さえている。
「グッ、ハアハア、くそっこの鳥頭がよくもやってくれたな。お前は生きたまま丸焼きにしてやる」
「丸焼きになるのはお前のほうだ!!」
自分の剣を拾い上げたセシリアはそう叫ぶと目の前の敵へと突進して行った。振り下ろされる斧を避けるとがむしゃらに着ている毛皮につかみかかり大男の肩をよじ登る。そこから強引に剣先を太い首にねじ込むと力任せに体重をかけ剣を引き抜いた。無理に引き裂かれた傷口からちぎれた肉片がどす黒い血とともに前に飛び散る。
一瞬場の空気が凍りついたように感じた。熱いはずの炎が遠くに見える。ドスンという音とともに大柄なボアオークは地面に伏した。
それを見ていた仲間たちは手を止めすぐに顔を青くする。
「ヒッば、ばけもんだ!」
そういうと一人が一目散に逃げ出した。フィリアナとシャリンが相手をしていたボアオークもそれに続く。しかしセシリアの横を通り過ぎようとしたとき彼女は倒れた男の死体を踏み台にし背中に飛び掛った。そのまま容赦なく首に刃を通す。以前エレナーゼを追っていた黒いケンタウロスを思い出した。
言葉を発することなくそのボアオークも地面へと倒れた。だが剣の切れ味が悪かったのか口から赤い泡を吹きながらもがいている。初めに腹を切られたボアオークはその場にしりもちをつき、出会ったころとは別人のように震えている。
セシリアが剣についた血を飛ばし振り返る。
「ウッ、ご、ごめんなさい、殺さないで。あ、あやまるから、お金もあげます。だからどうか助けて」
必死に頭を地面にこすりつけ命乞いをする。そんな相手をまるで道端に捨てられたごみを見るような目でセシリアは見下ろす。
「なんだっけ、エルフはうといからちょっと手を加えれば豚みたいに鳴くんだっけ?」
「す、すいません、もう言いません。絶対に誓って」
手を合わせすすり泣いている。もうこれだけ反省すれば今後はやらないだろう。特にエルフ族には。セシリアはそんな彼の頭を踏みつけ首元に刃を当てた。下からくぐもった嗚咽が聞こえる。
「なあ、そこらへんにしておいてあげたらどうだ?結構反省してるみたいだし」
「反省?この馬鹿にそんなこと無理でしょ。この便所みたいな口から私たちの種族の名前を出した時点で死に値する」
みんなあまりの迫力に動けずにいる。もしこれ以上声をかけようならこちらにもその剣がふりかざされそうだ。あわれなボアオークは小さな声でおとうちゃん、おかあちゃんと泣いている。
「そこまでにしておきなさい」
静寂を裂き彼女を止めたのはエレナーゼだった。