第267話 密林の蛮族、ボアオーク 3
反撃に出たセシリアが逆に捕まってしまった
エレナーゼが放った火がどんどんと勢力を広げていく。
「早く火が燃え広がる前に」
「わかってるわよ!」
ニーナはすばやく回り込むと背後からボアオークの首に腕を絡め、長い尾で全身を拘束した。これには大男もたまらず地面に倒れこみ首を押さえて暴れている。同時にフィリアナの背に乗っていたヴェロニカが飛び上がり腹を刺されていた男を踏み台にした。腹をかばっていた男はヴェ、という声とともに後ろに倒れた。そのままの勢いでセシリアを捕らえているボスへと飛び掛る。
手から発した紫色の炎がぶつけられる。しかし威力が足りなかったのかもう片方の腕で振り払われてしまった。ヴェロニカは地面へ着地し舌打ちをする。
「ダークハーピーか、残念だったなぁ今は昼間だ。太陽に照らされたお前たちなど甲羅のない亀と同じよ」
笑うボアオークに連続で炎をぶつける。相当熱いはずだが相手は余裕そうだ。だが片手が塞がっている今ならチャンスかもしれない。俺は姿勢を低くし短剣を片手に横から近づいた。本当は人なんて刺したくないがそんなことを言っている場合ではない。
ヴェロニカからの攻撃に夢中になっている隙にセシリアを拘束している腕に短剣をつきたてた。
「いてっなんだぁ?」
顔を上げると怒りに満ちた二つの目がこちらをにらんでいる。もしかして効いていない……?これはまずいかもしれない。
次の瞬間顔に強い衝撃を感じ、世界が反転した。何が起こったのかわからないがとにかく痛い。視界がぶれまっすぐに物が見えない。俺は今どこにいるんだ、え、なんだこれ。顔を触ってみると激痛とともに手になにかついた。ヌメヌメとした赤い液体、鼻血かそれとも顔から出た血か。わからないがとにかく今は起き上がり俺を殴り飛ばしたであろう敵の姿を探すのが先だ。
振り返るとちょうどあの大柄なボアオークがヴェロニカにつかみかかっているところだった。彼女は後ろに避け、間一髪で拳から逃れた。俺の短剣は腕にささったままだ。痛みを感じていないのか?それとも皮が厚いのか?いずれにせよ状況は好転していない。
ゆっくりと立ち上がる俺の横をピヨが低空飛行で通り抜けていった。止めようと思ったが言葉がうまくでてこない。横から迫るピヨに気づいたボアオークが今度は彼女につかみかかる。
だがまるで横から急に風が吹いてきたかのようにピヨの体は横へずれ、短剣が刺さっている腕へと一撃爆発を叩き込んだ。これは効いたようで緩んだ隙にセシリアはするりと抜け出し落ちている細身の剣を拾い上げた。