第265話 密林の蛮族、ボアオーク 1
密林にて休憩をとるもセシリアがさっさと出発してしまった
無言でジャングルの道なき道を進む。どこに蛇が潜んでいるかわからない。間違って踏んでしまうかもしれない。それに先ほどから蚊なのかハエなのかわからないがとにかく虫がそこらじゅうにいて気持ち悪くて仕方がない。耳元でブンブンと飛び回っては腕や顔にまとわり付いてくる。もう大声で叫び両腕をふりまわしたいくらいだ。まあそんなことをしたところで疲れるだけだが。
汗で濡れた髪がじっとりと顔に張り付くのを感じながらひたすらに耐えるしかない。いつになったらここを抜けられるのだろうか。もうなんでもいい、ここから出られるなら砂漠にだって戻る。ヴィーの言っていたことがようやく身に染みてわかってきた。
ため息を吐きながらただ進む他ない。思考を停止しぼーっと歩いていると突然前を歩いていたシャリンが茂みの中に引きずり込まれた。
「ちょっシャリン、あんた大丈夫?」
すかさず隣を歩いていたニーナが駆け寄る。俺も近寄ってみると彼女の足に縄がかかっている。どうやら動物を捕獲するための罠にひっかかったようだ。
「大丈夫だ、驚いたけどな。気をつけていたつもりだったが」
そう言って彼女は起き上がると手についた泥をはらった。
「心配ない、自分ではずせる」
シャリンが自分の短剣に手をかけたとき近くの茂みがガサガサと音を立てた。いち早く気がついたエレナーゼが戦闘体勢に入る。もしかしてあのとき傷をつけた熊かもしれない。いやジャングルといえば虎の可能性もある。動物相手に無事に逃げ切れるかわからない。
だが俺の予想に反し聞こえてきたのは下品な笑い声だった。
「フゴフゴ、ブヒヒまさか本当に引っかかるなんてなぁー」
大きな人影がいくつも茂みの中や木の後ろから現れた。いのししのような頭をした大男だ。皮膚の色は少し緑がかっているが獣人に似た毛深さがある。彼の言葉から故意的に俺たちを待ち伏せしていたことになる。
「へへぇ女ばっかりじゃねえか、やっぱり今回のはあたりだなぁー」
「な、言っただろ?俺は鼻がきくんだ。ケンタウロスの女がいいな」
「お前、ずるいぞ。抜け駆けするな!」
俺が見つけたんだと言い、喧嘩が始まってしまった。その隙にシャリンは自分の縄を切り体勢を整える。これはまずい状況になったかもしれない。相手は四人、こちらのほうが数が多いが力は相手に分がある。それに話がわかる相手でもなさそうだ。
「痛い目見たくなけりゃおとなしくしてろよ」
いのししの獣人がこちらへ近づいてくる。どうしよう、フィリアナたちに相手をしてもらっている間、俺とエレナーゼとピヨで後ろから周り奇襲を仕掛けるか?
「より取り見取りだなぁ、フゴッ、ナーガの女も気が強そうだがよさそうだ。おい見ろよエルフまでいるぞ」
「ああ本当だ、へへへぇ、おりゃあもう興奮してきた」
ニタリと牙が生えている口を歪ませよだれを垂らしながら笑っている。
「えへへぇエルフは最高に気が強いがあっちのほうはぜんぜんだからちょっとつっこめばすぐに豚みたいに鳴くらしいぞ」
「お高くとまってるが所詮は低俗な動物よ」
セシリアを指差し腹をかかえて笑い出したそのとき、俺たちですら気がつかない勢いで彼女が獣人の腹に剣を突き立てていた。