第263話 密林の洗礼
ついに砂漠を抜け密林へと到達した
やっと新しい場所へ来た喜びもつかの間生い茂る木々のせいでさらに風通しが悪くなり、まるでサウナの中を歩いているみたいだ。おまけに足元が見えないくらい木の根が張り巡らされいちいち荷車がつっかかってしまう。これは砂漠よりも困難かもしれない。
「木の間が狭すぎて荷車を通すことができません。残念ですがここで置いていくしかないようです」
フィリアナが息を切らしながら足を止めた。彼女の言うとおりこれでは先に進めない。
「そうだね、じゃあ最低限の荷物だけ各自分担して持っていこう」
「でもヴェロニカはどうするの?」
ニーナが荷車の中をチラリと確認した。
「申し訳ないですがヴェロニカさんには降りてもらうしかありませんね。わたくしの後ろに乗ってもらいましょう」
話を聞いていたのかヴェロニカがのそりと起きてきた。
「しょうがねえな、じゃあこれはもらうぞ」
そう言うと荷車にかけていた布を取り頭からマントのようにかぶった。その様子を見ていたポリーンが駆け寄る。
「あっ待ってください紐を通しますから」
ポリーンはヴェロニカから大きな布を受け取ると手際良く裁縫を始めた。その間に俺たちは持って行く荷物を決めることにした。まず水は絶対必要だ。小分けしてでも持って行きたい。それから食料、寝袋、衣服、その他生活用品。この人数で分けるにせよ結構な負担だ。
このジャングルの中を重たい荷物を背負って運ぶなんて陸軍の訓練のようだ。そんな中カルベネは大事そうに酒瓶をかばんに入れている。
「おい、それは置いていけ。ただでさえ重たいんだから」
「ええ?!そんな、そんなことできるわけないだろ!これは私の大切な命なんだぞ」
暑さのせいか余計にイライラしてきた。今はそんなことを言っている場合ではないというのに。
「だめだよ、最低限の物って言っただろ。みんなで協力しないと先に進めないぞ」
彼女は大きくため息をつくと仕方なさそうに酒瓶を地面に置いた。ポリーンのマント作りも終わったところで旅を再開した。立ち上がろうとしても荷物の重さで後ろに倒れそうになる。この先ずっとこれを背負って歩かなければならないと思うと気が滅入る。
隣のシャリンはなんてことないという顔をしている。というかみんな平気そうだ。
「ふむ、ここから東へ向かったところにあるようだ」
シャリンがコンパスと地図を見比べながら歩き出した。俺は背中を丸め、後に続いた。