第255話 命の水
一人でいた少年にコルが話しかけにいった
それから二人はしばらくボードゲームで遊んでいた。遠目に見ていたが言うほど問題はなさそうだ。
次の日俺たちは引き続きなにもない砂漠を進むこととなった。そもそもこの集団はどこへ向かっているのだろう。落ち着いて滞在できる場所をこうして探しているのかもしれない。
昨晩の一件があったせいかコルは後ろを歩いていたエスに声をかけている。一緒に遊んでいる女の子は不思議そうな顔をしている。なんで突然話しかけるようになったの、という感じだ。だがしばらくするとなんとなくなじみ三人で遊び始めた。
彼の母はこうなることを知っていてあえて手を加えなかったのかもしれない。
子供たちの声を聞きながら再び夜が訪れた。コルは楽しそうに今日あったことを母親に話している。
「どうだ、新しい友達と仲良くできそうか?」
俺が後ろから話しかけると彼は笑顔でこちらを振り向いた。
「うん、別に変なやつじゃなかったよ。どうしてだれも好きになれないの、って聞いたらエスはみんなと同じくらい友達でいたいんだって」
彼がみんなを平等に見ている、ということか?いや、なんだか少し違う気がする。男でも女でも同じ気持ちでいたい、すなわち恋心はないが友情はあるということだろうか。
「そうなんだ、まあよかったな誤解が解けて。ところで俺たちはどこに向かっているのかな」
「この砂漠には小さな水辺がいくつかあります。しかし時期とともに変わるのでそれを移動しながら暮らしているんです」
コルに変わってヴィーが答える。遊牧民みたいなものか。広い砂漠をこうして移動することで奴隷商人のような悪いやつから姿をくらましているのだろう。
翌朝いつもと同じく日が昇る前に出発する。きついことに変わりはないがなんだかこの生活もなれてしまった。相変わらず最後尾を歩いている男はぶつくさと文句をたれており、時折後ろを見張っている狩人の女にしりをたたかれている。
俺たちがぼーっと歩いていると突然子供たちが騒ぎ始めた。
「見て見て!あそこ、やっとついたー」
顔を上げると遠くのほうにキラキラと光る水面が見える。文字通り砂漠のオアシスだ。心なしか全員の足取りも軽くなる。近づいてみると結構大きさがある。これなら彼らもしばらく安泰だろう。
すぐ目の前に水辺が迫ったところでコルが待ちきれない様子で駆け出していく。後ろの男がやっとだー、と言い荷車をはずし後を追う。
しかし興奮した様子の息子の襟首を父親が咄嗟につかんだ。
「待て、まだ行くな!」
捕まれたコルはきょとんとした顔をしている。一方後ろから来た男は一人でオアシスに向かっていった。
「やったー一番乗りーー!え、あうわ!!」
一歩水辺の近くへと脚を踏み入れた瞬間、男が立っていた地面が揺れ下から大きな黒いはさみが現れた。男はあられもない悲鳴を上げ飛び上がる。間一髪のところではさみを交わし、こちらへ戻ってきた。砂を押しのけ姿を見せたのはなんと巨大なサソリだった。