第253話 めんどうな男たち
砂漠を進む途中で分かれた群れと合流した
進み始めると同時に先ほど群れを率いていた女が先頭にいるコルの父のもとへ行き、なにやら話しをしている。あれだけ怒鳴っていた彼だが彼女と話している今はとても冷静で落ち着いた様子だ。だが妻に近寄るなと言っておきながら自分は他の女と話していていいのだろうか。俺はチラリと斜め後ろのヴィーに目をやった。
彼女は特に気にする様子もなくただ歩き続けている。顔を上げた彼女と目が合ってしまった。
「気になりますか?ああ言っておきながら自分はいいのか、ってね」
そう言ってにんまりと笑った。
「お見通しですね、まあそうなんですけど」
「ふふ、よく聞かれます。でも大丈夫、彼女はこの群れで一番の狩人ですからね。頭が切れるし常に冷静、すぐ感情的になる主人にはもってこいの助言者ね。それに彼が私を見ているときの目つきとは違いますから」
遠目だが確かに今の彼は聡明で頼りがいがありそうだ。
「今はまさに群れを率いる長っていう感じでかっこいいでしょ。だから私はここから見る主人が好きなんです。近づいてくるとあーあって思ってしまいますけど」
なんだか笑える話だ。遠くにいるほうがかっこいいなんて、だが実際に俺もそう思う。近くで怒鳴っていた人とは別人のようだ。
すると後ろからぶつくさと文句が聞こえてきた。
「チッ女の癖にでしゃばりやがって。肩から弓なんてかけてよ、狩人きどりかよ」
振り返ると荷車を引いている男が汗をたらしながらまた何か言っている。
「女ってのは一歩下がってついてくるもんだ、それがかわいげがあるんだ。あんなやつ一生だれももらってくれないね、なあ、お前もそう思うだろ?」
こちらを見てそう言われたが返す言葉に困ってしまう。しかしこれもいつものようでヴィーも無関心だ。
「俺は、もらってもらえない側の人間だからなー」
なんとなくでごまかしておいた。まあ本当にそうなのだから仕方ない。男は疲れたのかまた後ろのほうへ下がっていった。
大人たちの合間を縫ってコルとその友達が楽しそうに走り回っている。出会ったときはとても大人しい印象だったが、年相応の活発さを取り戻してくれたようでよかった。
そういえば荷車の中のヴェロニカは大丈夫だろうか?寝ている間に熱中症になってしまうかもしれない。俺は後ろからついてきている荷車を振り返った。昨晩も元気だったし特に心配はいらないか?
そんなことを考えているとふと群れの端を歩いている少年の姿が目に止まった。歳はちょうどコルと同じぐらいだが一人で離れてぽつんと歩いている。周りに親らしき人も見当たらない。なにか理由があるのだろうか、だれも気に留めてはいない。俺は遊んでいるコルに聞いてみることにした。