第251話 受け継がれる血、古代種
町を出たところでコルの母親と合流することができた
俺たちは迎えに来たケンタウロスたちとともに夜の砂漠を進み始めた。当然このことについてコルの父親は不服そうだ。父親と言うが見た目は若くどちらかというと彼自身がまだ子供のようだ。今は群れの先頭に立って歩いている。
妻の隣を歩いている俺たちのことが気になるのか後ろを振り返り確認してくる。すると先頭を離れこちらに向かってきた。なにか不満があるに違いない。だが向かった先は俺ではなくフィリアナのほうだ。
「おい、それ荷物」
「え?これですか?ええと……」
彼はぎこちなくフィリアナから荷車をはずすと少し前を歩いていた別の男を呼び勝手に装着した。突然荷物を増やされた仲間は怒りの声を上げる。
「ちょっ、なんでだよ、これ俺の荷物じゃないじゃないか!」
「うるせえ!黙って引け」
一括するとそのまま再び先頭に戻っていった。荷物を押し付けられた男はぶつぶつと文句を言っている。結局のところフィリアナを気遣ってくれた、ということだろうか。
「あ、あとお前、くっつきすぎるな。いいか、変なことしたらたたき殺すからな!」
去り際に物騒な脅しを俺に放っていった。女の人にはやさしいということか?隣でコルの母親がおかしそうに笑った。よく見ると彼女の目もコルと同じように瞳の形が楕円形だ。
「ごめんなさいねあの人いつもこうなんです。おかげで砂漠の暴れ馬なんてあだ名をつけられてしまいました。だれの手にも負えないとんでもない男です」
なるほど、奴隷商人が護衛がいたにもかかわらず俺に助けを求めてきた理由がわかった。まあ単身、斧一本で町に乗り込んでくるようなやつから子供を奪うなど命知らずだ。きっとさらわれた後、一人で群れを離れずっと追いかけてきたのだろう。そう考えると不器用なだけで家族思いなのかもしれない。
「そうでしたか、いや始めて見たときは驚きました。まさか一人だなんて。そういえば失礼かもしれませんがあなたはケンタウロスですか?なんか俺が知っているのと少し違うというか」
一緒に歩いているほかの人たちもコルのように光沢のある馬体と動物のような耳をしている。服のすそからは長く伸びたたてがみものぞいている。
「え、ああそうですよね。私たちもケンタウロスの仲間、古代種と呼ばれています」
古代種?今まで一度も聞いたことがない言葉だ。
「私たちは昔、ご先祖たちがこの地上に降りてきたときの姿を色濃く残していると言われているの。要するにもともとの姿、古代から受け継いだ本来の姿ままということですね」
本来の姿、ということは神に近いということか?以前カルベネが言っていた地上を治めるために授けられた特別な力。それをいまだ持っているということだ、それならば美しい毛並みや体つきに納得できる。そしてそれを狙おうと奴隷商人が躍起になることも。
しばらく進んだところで先頭を歩いていたコルの父親が立ち止まり休むことをみんなに伝えた。