第239話 砂漠の奴隷商人 1
砂漠の中で大きな町へたどりついた一行
男がお辞儀をすると拍手があがった。珍獣オークションか、なるほど。ここの金持ちたち相手に見世物小屋をやるというわけだ。後ろからアシスタントが数名、布のかけられた箱を押して出てきた。
「さて、最初は羽の生えたうつくしい魚、バタフライフィッシュです」
パッと布が取り払われるとそこには蝶の羽が生えた金魚が現れた。長い尾ひれを動かして優雅に泳ぐ様はとてもきれいだ。隣のシャリンもめずらしそうにじっと見つめている。
「どうですか?綺麗でしょう?ですがまだまだですよ。さあ次を持ってきなさい」
掛け声とともに姿を現したのはまたもや水槽だ。しかし中にはオウムのような鳥が入っている。なんとも不思議で翼はペンギンみたいに短く、時折ラッコのようにひっくり返って器用に泳いでいる。
それから彼はいろいろと奇妙な生き物を紹介していった。妖精のような小さな翅を持った小型の恐竜や足の生えたサメ、角のあるねずみなどまるで作り物のような動物ばかりだ。きっとこの世界にはこういう見たことも無い生き物がわんさかいるのだろう。
「どうですかみなさん、楽しんでいただけましたでしょうか?ふふふ、でもクライマックスはこれからですよ。まだ帰らないでくださいね」
すると一際大きな檻が舞台に登場した。これにはなんだなんだと期待の声があがる。グリフォンでも入っているのだろうか。
「それではみなさんご注目!これぞ天の馬、砂漠を駆ける金でございます!」
布が取り払われる音に感嘆が重なる。檻に入っていたのはなんとケンタウロスの少年だった。だが俺が今まで出会ってきたどのケンタウロスとも違う、別の種族だ。
男の言葉通り馬体はまるで金箔を貼り付けたかのようにわずかな太陽光でさえ反射し輝いている。また競走馬のように引き締まった体は無駄な肉が無く、筋肉の筋がはっきりと浮き出ている。
耳もフィリアナのようなとがったものではなく動物に似たもので、頭から腰にかけてたてがみのような長い毛が生えている。よく見ると瞳孔の形も俺たちと違い、ヤギを思わせる楕円形だ。
かわいそうな少年はおびえて檻の奥で固まっている。
「すばらしいでしょう、これが今回の目玉商品でございます。ほらもっと前に出てきなさい」
だが彼はそのまま動かない。いらだった男は杖で檻を殴った。少年はビクっと驚いて肩を縮こめる。この場にフィリアナがいなくて良かった。彼女ならきっとこの事態に心を痛め、助けに行こうとする。
残念だが今回はそううまくはいかないだろう。かわいそうだが俺たちの力ではどうしてやることもできない。俺は目を伏せてその場を後にした。