第236話 砂漠の洗礼
予期せぬ事故をカルベネに茶化された
あらぬアクシデントにふざけたコメントをし、見事池に放られたカルベネの音を聞いてみんなぞくぞくと目を覚まし始めた。俺は何事も無かったかのように顔を洗っておはよう、と挨拶をした。
「ハァ……ハァ……兄さん、ちょっとなんか言ってくださいよ」
「あらカルベネさんおはようございます、水浴びもいいですけどあまり深くまで行ってはだめですよ」
ずるずると水からあがって来たカルベネをフィリアナが器用に超えていった。日が上がる前に次の町に行きたいので早々に荷物をまとめ出発した。
だんだんと気温が高くなる中、次第に硬い地面がひび割れ砂が混じるようになってきた。太陽がちょうど頭上に来たころついに地面がなくなり柔らかい砂に変わった。前方には見渡す限りの砂丘が広がっている。
俺はフィリアナの引いている荷車のタイヤをはずし、もらったそりに付け替えた。
「いよいよ来ましたね、この先に本当に町が見当たるといいのですが」
彼女はかばんから布を取り出し頭に巻いた。シャリンもいつも首に巻いているスカーフで口元を覆っている。広大な砂の海を進み始めたはいいが、暑さに加え足が沈みいつもに増して体力が削られる。それにそりに付け替えてみたはいいがやはり雪の上ではないので重さで沈み、結局シャリンと一緒に後ろから押すことになった。フィリアナも足取りが重くつらそうだ。
元気に飛び回っていたピヨもぐったりしている。熱中症で倒れるか、町に着くかこれではもはや時間勝負だ。
「ちょっとあそこになんかいるんだけど、みんな見える?」
ニーナの声に顔を上げると遠くにいくつもの動物の影が見える。手を額に当てて目を細めるとどうやら馬の群れのようだ。それはどんどんこちらに向かってくる。
ずっしりとした体格に太い脚、黒くもっさりとしたたてがみ。これはもしやオオカミウマではないか、よく見ると群れの中央にひときわ大きいやつがいる。あれがアーグナの言っていた雄だろう。長い牙はまるでサーベルタイガーのようだ。これは大きく迂回して避けたほうがよさそうだな。
するとその中から二頭こちらに駆け寄ってきた。首には鎖が巻き付いている。きっとあのときビーストテイマーが逃がした雌たちだろう。
二頭は攻撃してくることなくこちらをじっと見つめている。俺はそっと近づいて首から鎖とアーグナがかけた縄をはずしてやった。
「な、なにこの馬、牙が生えてるんだけど。これがオオカミウマってやつ?」
ニーナをはじめ仲間たちはその恐ろしい風貌に怯えている。俺も一度会ったことはあるがやはり怖い。二頭は鎖がはずれるとそのまま群れに帰っていった。
「別に襲ってくるわけじゃないみたいね」
「でもなんだかかわいそうですね、だれが鎖なんてつけたんでしょう」
後ろのほうからポリーンの心配そうな声が聞こえた。群れの横を通ってみたが雄がこちらを警戒するだけで特に攻撃はしてこなかった。
俺は荷車を押しすばやくその場を通り過ぎた。