第219話 無口なトカゲたち
メロン農家の青年、イモンのもとで泊めてもらうことができた
俺は迎えに来た二人のデザードスケイル族について行くことにした。道中一言も発することはなく、ただ淡々と歩き続ける。
しばらくすると遠くのほうに明かりが見えてきた。近づくにつれ泥と木や石で造られた簡素な建物が姿を現し始める。いくつか焚き火を炊き、その周囲に沢山のトカゲ人間たちが集まっている。彼らは俺の姿を見つけると首をもたげじっと見つめてきた。
表情が全く無く、声一つ上げない様はなんだか不気味だ。横にいた二人に焚き火のそばに案内された。置いてあった古木に腰を下ろすとなにやら二人は身振り手振りで仲間と話をしている。
前方に座っている年老いたように見える人がこの種族の長なのだろう。片目は白く変色し、杖にあごを乗せてまるで物置みたいに固まっている。生きているのかさえわからない。
「ええと、みなさんこんばんわ。俺は亜李須川 弘明です、よろしく……」
声をかけるも返答は無い。あまりにも静かすぎて焚き火の火がはじける音がうるさく聞こえるぐらいだ。戦闘の時とはまた違った冷や汗が出てくる。
一通り俺を観察し終えたのか、長の隣に立っていた体の大きなデザードスケイル族が手話で二人に言葉を返した。それを受けて二人はうなずいている。体の大きな男?はこちらに近寄ってくると俺に向かって手を動かした。
彼らにも言葉はあるようだが全然理解できない。俺は適当にうなずいておいた。すると彼は仲間に何か指示を出した。それを受け仲間は木の器をこちらに差し出した。中には少し濁った液体が入っている。正直あまり飲みたくは無いが、ここは信頼を得るために仕方が無い。
一口飲んでみると甘いジュースのようだ。俺が飲み干す様子を皆まばたきもせず見つめてくる。
「ありがとう、すごくおいしいかったよ」
木の器を返そうとすると突然、太鼓の音が聞こえてきた。それがまるで合図のように動き出す。各自ばらばらに体を動かしたり肉を焼きだしたりと大忙しだ。
ふと足元を見ると子供が靴に絡みこちらを見上げている。見たところによると歓迎してくれているのか……?彼らのペースは全くつかめない。騒ぎの中、隣にいた大きな男が地面に絵を描き始めた。
鳥に卵が盗まれている絵だ。それから木の枝を握り締め足を踏み鳴らし、ゲコゲコと声を上げる。きっと彼らの卵が盗賊団に盗まれそれについても怒っているのだ。
協力者が得られたのは大きな進歩だが問題はどうやって取り返すかだ。相手はハーピー、そうなると地面を這っているデザートスケイル族は不利になる。弓を使うかもしれないが、あの荒くれ者相手に怪我人が出るのは目に見えている。
今一度作戦を練る必要がありそうだ。俺はしばらくトカゲたちの変な踊りを見た後、泊めてもらっているメロン農家へと戻った。