第216話 不思議なトカゲ人間 1
町に井戸を探しに行ったが満員で使うことができなかった
手ぶらの帰還に皆ため息をつく。
「困りましたね、これではじきに井戸の水も枯れてしまいます。わたくしたちだけの問題ではなさそうですが」
今度ばかりはいつも批判的なセシリアも口をつぐんでいる。この先水なしでは旅が続けられないこと、それだけではなく引き返すことも難しいとわかっているのだろう。
ニーナが腕を組みわざとらしく息を吐く。
「はぁー毎回思うんだけど、どうして自分たちの問題なのにみんな無関心なのかしら。あんたの言うとおりこのままじゃ井戸の水だってなくなっちゃうっていうのに」
「だいたいどこもこんなものよ」
岩陰で休んでいたエレナーゼが肩をすくめる。こうして俺たちは水を手に入れられないまま、また夜を迎えた。肌寒い星空の下、ヴェロニカが体を伸ばしている。
「どうだ、だめそうか」
俺は今日の出来事を伝えた。彼女は仕方ないと言うようにタバコに火をつける。
「ところで小僧、さっきからこっちを見てるあいつらはお前の新しいお友達か?」
「え?あいつらってなんだよ」
周囲をぐるりと見渡すがやはりなにもいない。だがヴェロニカがそんな冗談を言うようには思えない。
すると彼女は遠くの岩を指した。じっと見つめていると月明かりに照らされ何かがちょろりと動いた。良く見ると岩陰から目をのぞかせこちらの様子をうかがっている。相手はどうやら二人のようだ。
俺は短剣を腰に巻き、ゆっくりと近寄ってみることにした。接近しても相手は逃げようとしない。次第にその姿がはっきりと見えてくる。二足歩行で細い槍を手にしている。皮膚はごつごつとしていて毛はなく……一言で表すならトカゲ人間だ。
二人のトカゲ人間はじっとこちらに目を向け、ときおり舌をチロチロとのぞかせている。驚くわけでもなく一言も発しない。
「えっと、こんばんわ何か用かな?」
手を上げて挨拶してみたがやはり何の反応も無い。トカゲ人間ということは獣人に分類されるのか?
「もしかしてここは君たちの領地なのかな?俺たちはどいたほうがいい?」
「……」
おそらく言葉が通じないのだろう。まあ攻撃してこないということは敵ではないということだろう。ただ俺たちが気になって見に来ただけかもしれない、もう疲れたのでみんなのところに戻ろう。
そう思って来た道を戻り始めたとき、なんと俺の後ろを二人がついて来たのだ。振り返ると二人はぴたりと動きを止めた。そしてまた歩き出すとついてくる。
「お前、なんてものをつれて帰ってきたんだ」
「だって仕方ないだろついて来ちゃったんだ、言葉も通じなくて」
結局トカゲ人間たちはキャンプにまで来てしまった。幸いにもみんな寝ていたので大騒ぎにはなっていないが。二人は置いてある荷物に鼻を近づけ臭いを嗅いだり、寝ている仲間の顔を舐めたりといろいろ詮索し始めた。
「ちょっ待て待て、触らないでくれ。静かにみんなが起きちゃう」
慌てて止めに入る俺を二人は不思議そうな顔で見つめて来た。