第212話 困難な旅 1
亜李須川の不注意によりエレナーゼの機嫌を損ねてしまった
翌日俺は顔の傷についていろいろ聞かれながらも早朝に出発した。もちろん理由を言うつもりはない。朝は比較的涼しいがそれでもすぐに日が昇り地獄のような暑さが襲ってくる。
俺はうつむきながら日の光から逃れるようにただひたすら自分の足が交互に動くのを眺めていた。時折、額から汗が乾いた地面に落ちる。聞こえてくるのはフィリアナが引いている荷車の音だけだ。出発する前に満たんに持ってきた水ももう底をつきそうだ。
猛暑のせいでぼーっとしている俺の肩をシャリンがつついた。
「おい、あれじゃないのかキンナラたちが言っていた町というのは」
顔を上げると遠くのほうにいくつも建物が並んでいるのが見えた。どうやら俺たちは道に迷うことなく到着できたようだ。とりあえずみんなを岩陰に避難させ、俺とシャリンで偵察に向かうことにした。
町は大勢の人でにぎわっておりいたるところに露店が立ち並んでいる。以前の町のように塀に囲まれておらず開放的だ。またいる人も亜人や獣人が多いような気がする。早速水を買ってみんなに届けるべく露店をきょろきょろと見て回る。
水はすぐ発見することができた。だが値段がとても高い。以前購入したときの三倍はする。わかりやすく説明すると百円だった水が三百円という具合だ。これだけ聞くと大したことないように感じるが、昼休みに一本買うのとはわけが違う。こちらには大勢仲間がおり、しかも何日分も必要なのだ。
「ちょっと高すぎるな、井戸とかあったらいいんだけど」
「あれならどうだ?」
彼女の声に振り返ると視線の先には青果店が立ち並んでいる。店先にはさまざまな物が置いてあるがその中でも縞模様の無い、スイカのような果物が目に留まった。もし似ているのならば水を買うより得かもしれない。
だが予想とは裏腹に小ぶりな割りに値段が高い。まあこんな炎天下の荒野で水を安く手にいれようとしていること自体間違っているのだろう。試しに一つ買って食べてみることにした。
短剣で半分に切ってシャリンと分けた。中身は赤みがかっており白い種が点々としている。見た目はやはりスイカに近い。味はというと……甘味が薄い上に水気がなく正直美味しいとは言えない。シャリンも微妙そうな顔をしている。
「なんかあんまり美味しくないな、困ったどうする?」
すると俺の言葉に店員の男が口を曲げる。
「そんなこと言ったってねしょうがないじゃないか。今水が全然手に入らないんだ。そのせいで果物は輸入品以外、全部だめになっちまった」
どういう理由か水の資源が枯渇しているようだ。だがここでそうですかと引き返す訳にはいかない。
「雨が降らないせいですか?」
「いや違う、ここらはもとからあんまり雨は降らないんだ。どうやら大本の水源がギャングどもに占領されてるらしくてね。自警団がどうにかしようとしてるみたいだけど、ハアーさっさとやってくれないとこっちも商売あがったりだよ」
残念ながらというか毎度のことだが旅というのはどうも上手く行かないようになっているらしい。