第208話 お祭りごと
キンナラたちにお礼を言うため今一度、集落へと立ち寄った
俺たちの姿を見てこどもたちがクスクスと笑っている。しばらく休んでいるとさきほどの少女が赤ちゃんを抱えて戻ってきた。
「みなさん大丈夫でしたか?」
「いや、結構本格的な味だったな……。ところでその子は君の?」
「違いますよ、私の姉の子です。忙しいので面倒を見ています」
俺が偉いなーと返事をした時、どこからか楽しげな音楽が聞こえてきた。
「あ、産まれたんですね。こちらへ来てみて下さい」
言われるままついて行くと一つのテントを囲みキンナラたちが手を叩いている。するとテントから産まれたての子供を抱え女の人が出てきた。とても疲れた顔をしているがうれしそうだ。
周りのキンナラたちは楽器を演奏したり、腰の翼を広げ踊ったりとお祭り騒ぎだ。楽しそうな様子に早速ピヨも翼を広げて踊りに混ざる。そこへ夫らしき人が大慌てでやってくると妻と共にテントの中へ戻っていった。
「へえーなんかすごいな、みんなでお祝いするのか」
「はい、母子ともに健康なのはうれしいことですから。時々そうならないこともありますので」
この世界では出産は命がけだ。いや、出産とはもともと命がけの行為なのだ、たとえ医学が発達してもそれに変わりはない。
「そうか、よかったな無事に産まれて」
俺は彼女が抱えている姉の赤ちゃんの頬を指でつついた。すると小さな手で指先を掴み口に入れた。
「あっこらだめでしょ、すいませんこの子今なんでも口に入れちゃうから」
「ははは、きちんと手を洗ってくればよかったな」
手加減を知らない赤ちゃんに指を思い切りかじられてしまった。ほほえましいが歯が生えそろっていなくて良かった。赤ちゃんは目の前のものを取り上げられると今度は自分自身の手を眺めだした。握ったり開いたりしていると突然ハッとなにかに気づいたように止まる。
「ふふ自分の手に気づいたみたい、ときどきあるのよ。自分の体が動くことを発見したの、ね」
彼女はそう言って赤ちゃんのほうを見た。当の本人は口からよだれを垂らしぼーっとしている。というかそんなことあるのか、自分の体のパーツに気づくとはなかなか不思議なことだ。
俺はふとこれからの旅のことを思い出し、先どこか休めるポイントがあるか聞いてみた。
「うーんずっと向こうに村があったはずです。一度行ったことがありますがまあまあにぎわっていましたよ。泊まる場所もあるかもしれませんね」
泊まる場所は無理そうだと予測できるが必要な物資はそろえられそうだ。今日はここで一夜を明かし、翌日出発することにした。