第205話 別れの言葉
勇気を出してヴェロニカに喫煙時のマナーを正すようお願いした
翌朝、俺はケンタウロスたちに別れを告げた。アーグナとヨーラをはじめ集落中の人たちが送りに来てくれた。
「もう行ってしまうのかい、寂しいな。」
俺はアーグナと硬く握手を交わした。後ろでは助けてくれた少年が残念そうな声を上げている。
「泊めてくれてありがとうな、みんな元気で」
「お礼を言うのは私たちのほう、私を信じてくれてありがとう」
そういえばあのときなぜヨーラだけ残っていたのだろうか。俺はてっきり他の仲間と共に逃げていたと思っていたが。それについて聞くと彼女は少し恥ずかしそうに笑った。
「あー他にも残っている人がいないか見ていたの。そうしたら二人がオオカミウマに襲われていて、めちゃくちゃにやっちゃった」
「あれはオオカミウマって言うのか、なるほど牙が生えているわけだ」
アーグナは思い出したのか苦笑いを浮かべている。
「その名のとおり狼みたいな馬さ。ここらへんは乾季になると草も少なくなるしひどいときは水も干上がってしまう。体の大きな彼らはそれじゃ生きていけないだろ、だから時折狩りをしたり死体を食べたりするんだ。もともとの性質は臆病な馬だけど群れでいると襲ってきたりする」
肉食の馬なんてよく捕まえたもんだ。俺なら絶対に近寄らないが。
「よっぽどひどい扱いをしていたのよ、かわいそうにあの雌たちは無事群れに帰れたかしら」
ヨーラの言葉に俺は思わずえ?!と声を上げてしまった。あれで雌なのか……。
「えって雄はもっと大きいのよ。たてがみももっと生えてるし。まだ近くにいるかもしれないから気をつけてね」
俺はシャリンと顔を見合わせた。彼女も俺と同じように嫌そうな顔をしている。
そこへアーグナの父が現れた。まだふらついているが一人で立てるほどに回復している。
「やあもう行くのか、どうもありがとう。そうだ町へ行ってみてくれ俺の弟が指揮をとって再建しているらしいからな。旅の助けになるかもしれない」
後ろのフィリアナがそれはいいですねと相槌を打つ。
「ぜひ行ってみますね。それではみなさんさようなら、わたくしみたいなよそ者を受け入れてくれてありがとうございました」
ぺこりと丁寧なお辞儀をする彼女にアーグナが近寄る。
「君はよそ者じゃない、共に駆けたのなら僕たちは仲間だ。たとえ離れていても君の魂はいつも僕らとともにある。大地の精の加護がありますように」
同胞からの言葉にフィリアナはうれしそうに微笑んだ。