第204話 近代のマナー
この世界において人間がどのように捉えられているのか聞いてみた
日も落ちてきたのでそろそろ眠ることにした。明日この集落を出発する。次はキンナラたちに会いに行きお礼を言う予定だ。名残惜しいがずっと留まっているわけにもいかない。
みんなが眠りにつく頃ヴェロニカが起きてきて消えかけた焚き火の近くでいつものようにタバコを吸い始めた。俺は最近彼女のこの嗜好が気がかりになってきていた。別にどうと言うことはないのだが近くに他の人が寝ているのに平気で吸うのだ。
できればやめて欲しいのだが……。俺がぼーっとしていたのか彼女はこちらに目線を向けてきた。
「なんだなにか言いたいことでもあるのか」
「あ、いや、別に」
ヴェロニカはふんと鼻を鳴らすと吸い終わった吸殻を足でもみ消した。
「な、なあ、そのタバコなんだけど」
歯切れの悪い俺に不機嫌そうに片目を細めると持っていたタバコを差し出してきた。
「いやそうじゃなくて」
「じゃあなんだよ、はっきり言いな」
イライラし始めた彼女に俺は意を決して注意することにした。
「そのーみんながいるところであんまり吸って欲しくないって言うか、ピヨやポリーンもいるし」
「はあ?なんだと?なんでだよ」
予想通りさらに不機嫌になり咥えているタバコを噛み潰した。味方と話しているはずなのにまるでピンチの時のようにのどがカラカラだ。
「いやいや別に吸ってくれてていいんだけど、ほら副流煙ていうか煙があまり体によくないからさ。なるべく遠くで吸って欲しいなって」
彼女は何を言っているんだこいつは、というような顔をしている。それもそうだ、俺のいた世界でだってタバコが有害だと騒がれだしたのはつい最近になってからのことだ。昔は駅でも道でもいたるところで吸っていたらしい。そう考えると彼女を含めこの世界の人はまだ知らないのだ。
「要するに向こうへ行けということか?」
「えっとそうじゃなくて煙がみんなのところに行かないようにして欲しいんだ。あと吸殻は地面に捨てないで欲しいな、汚いだろ?」
ヴェロニカは納得できないといった様子だがそれでも俺がうるさく言ったせいか立ち上がった。
「ハァーはいはい、チッめんどくせえな」
彼女は悪態をつきながら近くの瓶を手に取り、中身を捨てるとその中に吸殻を入れた。