第202話 手荒な手当て
ビーストテイマーを倒しついに全員で生還することができた
目をつぶって無視をする俺の口に無理やり酒を流し込んできた。
「ごほっ、なんでだよ、俺どうみても寝てるよね?」
「ハハアー起きてるじゃないの、ほら倒れてないでさー」
さすがにもう彼女のノリにはついていけないので今度こそ無視して眠りについた。遠くではキンナラとケンタウロスたちが騒いでいる声が聞こえる。だんだん音が遠くなってきたとき再び別の声で起こされた。
「ヒロアキさん、大丈夫ですか?」
薄目を開けて見るとポリーンが心配そうにこちらをのぞきこんでいる。俺がなにか言い返す前にぐいと頬に濡れたタオルを押し付けられた。
「体中擦り傷だらけじゃないですか、こんな泥だらけで寝てはいけません!」
彼女はテキパキと俺の服を剥ぎ取っていく。それから体をごしごしと濡れタオルでこすられた。気づかなかった傷に滲みて痛みが走る。
「ちょっポリーンなに、俺裸なんだけど……」
「はい、新しい服ですこれ着て寝てください」
ポリーンは服を俺の顔に投げつけると忙しそうにシャリンのところへと走っていった。同じように目をつむって休んでいたシャリンもまた手荒く手当てをされている。シャリンもまたポリーンが去った後、何事かと目をまるくしている。
まるで俺たちが怪我をして帰ってくるのを予想していたかのように彼女はせわしなく走り回っている。突然現れたポリーンにケンタウロスたちは驚いているようだがそんなことはものともせず、終いには周囲の人に指示まで出し始めた。
次の日俺は痛む背中をさすりながらアーグナの父親に会いに行った。彼は木枠の補助具に支えられてはいたがだいぶ顔色が良くなっていた。
「おはようございます、調子はどうですか?」
「ああ、君はアリスガワヒロアキ、いや明かりの中で見ると思ったより男前だね。息子から話は聞いていたよ、どうもありがとう」
俺はなんだか照れくさくなってちょっと目線をそらした。
「俺も参加したけど本当に助けてくれたのは俺の仲間です。賛同してくれたキンナラたちのおかげでもあります」
「そうだったな、彼らには助けてもらったな。すまない、大勢の人に迷惑をかけてしまった。タッドの言うことを聞いておけばよかった。人間に会いに行くのは止めろと言われたんだ」
彼は柵に寄りかかりながら残念そうに眉間に皺を寄せた。
「確かにそうかもしれません、でもいつか衝突は避けられなかったと思いますよ」
俺の言葉にそうだな、と言って顔を上げ小さくため息をついた。
「それで君たちはどこに向かっているんだい?たしか旅人だったよな」
彼に今までのことを簡単に説明した。
「そうかそれは大変だな。ダークエルフについてはわからないが好きなだけここにいてくれ。できることがあるなら協力しよう」
長がそう言ってくれたので俺はしばらく、と言っても二、三日だがここに留まり体勢を整えることにした。物資はあらかた町でそろえたのであるが水がなくなってしまったし、なによりみんな疲れている。
俺は礼を言って腹ごしらえをするべく荷物置き場へと戻った。