第199話 恐怖のビーストテイマー 1
ついに全員を救出することに成功した
すっかり群れが去ってしまった後何もなくなった町の中を俺とシャリンで走る。辺りは先ほどの騒ぎが嘘のようにしんと静まり返り、二人分の軽い足音だけが響いている。
「はぁーなんか疲れたな、ってかカルベネあいつ俺たちも乗せていけよな」
軽口をたたく俺にシャリンは小さく笑った。
「はは、そうだな。ここから走って帰るのは結構疲れるな」
「ハア、ハア、もう歩いていこうぜ。はあーみんな置いていくって結構ひどくないか?」
閑散とした夜の町で二人で笑いあった。緊張がほどけ自然と笑みがこぼれる。
だが門へ差し掛かったとき開いているはずの扉の前に影がかかった。ふと顔を上げるとそこには大柄な男がこちらをギロリと睨んで仁王立ちしている。俺たちは咄嗟に後ろへ半身を引き剣に手をかけた。
「お前たちだなこの騒ぎを起こしたのは……許せん!この俺の眠りを妨げやがって、許せんぞ!!」
男の野太い声が静かな町にこだまする。どうやらまだ敵が残っていたようだ。見た感じ冒険者の一人だろうか。太い鎖を二本手にしており、その先には大きな黒っぽい馬が繋がれている。
しかしその馬はただの馬ではない。脚がばんばのように太く首から肩にはライオンのような厚いたてがみが生えている。そしてなにより奇妙なのは狼のような長い牙が口から飛び出ているところだ。ちなみにばんばというの重たいそりや丸太を運ぶのを得意としている大型の馬だ。
二頭の大きな黒い馬はたてがみを震わせ首には青筋を立て、口から泡を吹いている。興奮の仕方が普通ではない。
「グフフ、俺様は泣く子も黙る恐怖のビーストテイマーよ。お前ら雑魚どもはこいつらのえさにしてくれる」
なるほどこれが本物のビーストテイマーというやつか、これなら納得が行く。と言いたいところだがこんな形で出会いたくはなかった。
男は腰に吊るしていた長い鞭を手にするとバシッと地面を打った。それに感化され二頭の馬が嘶く。
「さあいけっ!」
鎖から手を離し再び地面を打つと狂ったように口を開き俺たちに襲い掛かってきた。逃げようとしたが間に合わず服の端を加えられ空中へと放り投げられてしまった。地面に倒れた俺をばらばらにしてやると言わんばかりに首を伸ばし噛み付いて来る。間一髪のところで横に転がり回避した。
今度は太い前脚で俺を踏みつけようとがむしゃらに暴れる。俺は短剣を向け必死にけん制した。すると余計に興奮し後ろを向き蹴り上げようとしてくる。
次の瞬間、痛みと共に眼前が砂で埋め尽くされた。遠くのほうでビーストテイマーの笑い声が聞こえる。シャリンの苦しそうな声に歪んだ視線を横に向けると、彼女は馬の首に当てられ体勢を崩していた。
いろいろ困難があったがまさか最後の最後でこんな目に合うとは。くやしさと理不尽さからのどが詰まるがどうあがいたところで俺たちは現実、この凶暴な馬に勝つことができない。ここで死ぬのか、なんとか命だけは助からないだろうか?シャリンだけでも。そんな焦りが俺の頭を満たした。