第197話 折れた脚
シャリンが小屋を開けてくれたおかけでアーグナたちと再開することができた
とりあえず小屋に捕らえられていたケンタウロスたちの縄を切り、みんなを逃がした。
「よし、ほらアーグナも立って」
俺はまだ座り込んでいる彼に手を差し出した。アーグナは手をとったが思った以上に弱っておりなかなか立ち上がることができない。ヨーラも一緒に手を引いてくれたが足元に敷いてある泥だらけの藁のせいもあり、蹄が滑りうまく力が入らないようだ。
「ハア、来てくれて申し訳ないんだけど、僕を置いて逃げてくれ」
苦しそうに答える彼の姿にヨーラは眉間にしわを寄せた。
「い、嫌、ここまで来たのに、一緒に帰らなきゃ」
そう言うと無理やりにでも起こそうと力ずくに腕を引っ張った。だが力の入らない彼の体は地面に横たえたまま動かない。
「早くしないと君たちまで捕まってしまうよ」
彼の言う通り外ではなんとか仲間たちが食い止めてくれてはいるがいつまで持つかわからない。ヨーラは嫌だと言うように首を横に振った。ふとシャリンにマントを貸したままだということを思い出した。
「あ、そうだシャリン俺のマント返してくれ」
シャリンは言われるまま首に巻いていたマントを俺に渡した。不思議そうな顔でこちらを見ている。
俺は受け取ったマントをアーグナの脚のしたに敷いた。
「これを滑り止めにしよう。いいか?一、二の三でいくぞ。一、二……」
三、の声がけで一斉にヨーラは前から腕を引き、俺とシャリンで後ろから押した。滑り止めのおかげもありなんとか立ち上がることができた。その様子にヨーラは脚を小刻みに踏み鳴らし嬉しそうにしている。
「ありがとう、さあ父さんも早く立って、ここから出よう」
彼は未だ地面に伏している父親のほうを振り返った。
「父さんは後から追い付くから先にでなさい」
「何言ってるのほらみんな待ってるんだから」
アーグナはやれやれと言うように父に手を差し伸べた。しかし目線を下ろしたまま彼の手を取ろうとはしない。
「父さんてば早くしないと」
せかす息子にゆっくりと顔を上げる。
「先に行きなさい。みんなを率いてここから出るんだ」
意思のこもった父の目に大人びた青年の顔が歪む。
「なんで?だって先頭に立つのは父さんでしょ?ずっとそう言ってたじゃないか、絶対に助けがに来るから諦めるなってそう言ったのは父さんじゃないか!」
「すまない、もう脚の感覚がないんだ……」
かすれるような声が父親から漏れた。弱りきった父の姿にアーグナは何も言わずヨーラを連れ出ていった。