第196話 解けた手綱
扉を開けその隙にケンタウロスたちが捕らえられている小屋にまで来ることに成功した
絶望しなすすべなく固まっているとふいにシャリンが南京錠へ手を伸ばした。手にしている小さな針金を差し込みカチャカチャと回すとあっという間に開いてしまった。
「あっ、開いた……」
「どうした?さあ気づかれる前に助けよう」
そう言うと彼女は何事も無かったかのように小屋のなかへと入っていった。そういえばシャリンは盗賊だったということを思い出した。
俺は少し恥ずかしくなりながら彼女の後に続いた。狭い小屋の中には捕まったケンタウロスたちが手足を縛られて座っている。声をかけようとしたとき後ろから怒鳴り声が聞こえて来た。
「お前らなにやってる!おい、ここに侵入者がいるぞ!」
外を覗くと数名の護衛がこちらに向かってきている。俺たちの動きがばれてしまったのだろう。
「ヨーラ、仲間は任せた。俺たちが食い止めるからその隙に逃げ出してくれ」
俺の提案に彼女はハイ、と返事をした。だが一体何分持つだろうか?せいぜい十分稼げれば良いといったところだろう。護衛たちはすぐにでも取り押さえようと躍起になって走っている。
すると横から紫色の炎が飛んできて先頭の二人にぶつかった。あらぬ不意打ちを食らった男たちは足を止め、口々にになんだとつぶやいている。もちろん当てられた二人は火だるまになり地面を転げ回っている。
松明によって照らされた闇の間からヴェロニカが姿を表した。必死になっていて気づかなかったが、辺りはもうすっかり暗くなってきている。彼女を見た護衛はなんだこいつは?と言いながら体の向きを変えた。
助けるならチャンスは今しかない。きっと彼女なら数人相手でも問題ないだろう。俺は再び小屋へと戻った。
「大丈夫か?助けにきたぞ、申し訳ない遅くなってしまって」
暗がりに向かってそう声をかけると手前にいたアーグナがゆっくりと顔を上げた。綺麗だった銀髪は霞み出会ったころとは別人のような乾いた目が俺を見る。嫌な汗が背中を流れるのを感じた。
「ああ、君か、来てくれると思っていたよ。みんなを助けてあげてくれないか?」
俺たちは早速、縄を切る作業に取りかかった。
「その、ごめんなあの時助けてやれなくて」
「いや君が謝ることじゃないだろ。礼を言うべきは僕のほうだね。あの時君が来てくれたから生きる勇気が湧いたんだ」
アーグナの言葉に思わず手が止まった。彼は俺に怒って睨んでいたわけではないのか?出会って間もない、しかも敵であるはずの人間の自分を信じてくれていたのか?思い返せば彼ははじめ会った時も警戒はしていたが困っている俺たちを村へと案内してくれた。
俺はほっとしたと同時にそんな彼に恩を返せたことを嬉しく思った。