第195話 地面を揺らす蹄
混乱に乗じ門を開けようとしたがすぐに捕らえられてしまった
遠ざかってゆく門を見ながら俺はため息を吐いた。だめだ、あんな少しでは遠くにいる仲間には気づいてもらえない、それにすぐにかんぬきを戻されてしまう。
護衛が再び門を閉めようとしたその時、かすかに扉が内側に動いた。隙間からは熱風とともに火の粉が舞い込んでくる。それと同時に壁の横に付けられている小さな扉から慌てて護衛が戻ってきた。
火を使っているとするときっとエレナーゼの魔法かもしれない。俺は取り押さえられながらそんなことを考えていた。勘の良い彼女なら扉が開いたことに気づいてくれるだろう。
すると間もなくして地響きが聞こえてきた。それもどんどんと大きくなり近付いてくる。俺の腕を持っている護衛たちも顔をあげ辺りを不思議そうに見渡す。
「門が突破されるぞ逃げろー」
一人の叫び声を期にその場にいた全員が蜘蛛の子を散らすように門から離れていく。外にいた人々も我先にと壁の内側へ戻って来た。
「こらどこへ行く、戻ってこいこの腰抜けどもめー!」
立派な髭を生やした上官らしき男が必死に引き留めるも皆横を通り過ぎて行く。すぐに大きな音とともにケンタウロスの群れがキンナラを背に乗せ門を蹴破り入ってきた。
先頭を以前協力してくれると言った中年の女が地面を揺らしながらドカドカと駆け抜けてゆく。文字通り地面を揺らしているのだ。周囲の護衛はまるで太鼓の上に落とされた砂つぶのように腰が立たず跳ね上がっている。一見地震のようだが揺れているのはそこだけで俺は全然平気だ。
辺りを見渡しシャリンの姿を探す。助けてくれた彼女は無事だろうか。
「シャリンどこ行った大丈夫か?」
必死に声を出すが喧騒と砂ぼこりにかき消されてしまう。すると人がひしめき合う中から身をよじりシャリンが姿を表した。
「アリスガワ、無事か?」
お前こそと言いかけたときヨーラが盾を持って駆け寄ってきた。
「さあ、今のうちに助けましょう。案内してください」
俺たちは混乱に乗じて捕虜が捕らえられている小屋へと向かった。確か以前はかんぬきで外から閉じられていたはずだ。しかしそこは厚い鎖と錠で固く封じられていた。
「くそっ鍵が必要なのか?」
力任せに引っ張ってみるがびくともしない。この大勢のなかで今から鍵を探すか?それとも扉を破壊するか?爆薬は全部燃えてしまったし、小屋の窓は丁寧に外から打ち付けてある。
ヨーラが力一杯蹴飛ばすがこれでも壊れそうにない。
「え?え、そんなここまで来たのに……」
顔を青白くする彼女に俺は何も言えなかった。