第193話 汚い花火
ついに町の外からケンタウロスたちの攻撃が始まった
門はすでに閉じられており慌しく護衛が銃を片手に壁に登っている。壁に開いている小窓から銃口を突き出し外にいるケンタウロスたちに狙いを定めているようだ。冒険者たちも何事かと門の近くに集まりだした。
「くそっこれじゃ開けるどころか近づくこともできない」
「なにか気を引くものがあればいいが」
そう返事をしてシヤリンは辺りをきょろきょろと見回している。この集団に俺が飛び込んでいったところで勝ち目はないだろう。簡単に開けると言ってしまったが肝心なところを忘れていた。
「とりあえず高いところまで登って行って外の様子を見てこよう」
俺たちが回れ右をしたとき突然目の前にカルベネが現れた。
「なっお前、今までどこにいたんだよ!ほらいくぞ」
「あー待て待てそっちはだめだよ兄さん」
彼女はなぜか俺の肩を掴み引き止めた。前方を見ると建物の一つからもくもくと煙が上がっている。まさか火事が起きたのか、まあこの非常時だ火の事故ぐらいありえる。だがまだそこまで火は広がっていない、すぐ行って避難すれば良い。しかしカルベネは俺の肩から手を離さない。
「なんだよ今は遊んでる場合じゃ……」
「いやーさっき人がすげえ出入りしてるからさぁ、何かなーって思って入ってみたらびっくり武器庫でしたってわけ」
それで?と言いかけて俺は一つ嫌な考えに至った。冷や汗で顔が寒くなる。
「黒い粉がつまった箱があってさ、そこにちょいとマッチを落としたらでっかい花火の出来上がり、なんてな」
全身に悪寒が走る。目の前を火事に気づいた男たちが大声でわめきながら駆けて行くのがゆっくりと見えた。俺はすぐにシャリンの手首を掴み反対の方向へ走り出した。後ろで彼女が何か言っているが声がくぐもって聞こえる。
慌てて目の前にある丈夫そうな石造りの建物の裏にシャリンを押し込んだ。
「おい!なんだ突然どうしたんだ!」
俺は叫ぶシャリンを無視し彼女をしゃがませ耳を手で塞がせた。自分も同じように頭を低くし耳を両手で塞ぐ。カルベネ、あいつは勝手に逃げるだろう。
ぐっと息を呑んだそのとき遠方でものすごい爆発音が聞こえた。それを合図に次々と地響きのような轟音が響き、空気が揺れ近くの石壁がガタガタと音を立てる。目の前のシャリンは全身の毛を逆立てこれでもかというほど目を見開いている。
しばらくして音が止んだのでそっと建物の影から顔をのぞかせてみた。案の定、武器庫からは黒煙が立ち上り炎に包まれている。これには避難していた町民も慌て戸惑い町中パニックだ。
門のほうを見るとほとんどが武器庫のほうへ行ったのかそれとも逃げたのか手薄になっていた。俺はまだぶるぶると震えているシャリンにマントをかけ一人で門へと向かった。