第189話 小さな糸口 3
盾作りをしていたところ材料が足りなくなってしまった
どうやらもう廃材を使い切ってしまったようだ。仕方が無い、出来上がったものだけで行くしかない。するとそこへ男が一人ふらっとやってきてヨーラの盾をひょいと持ち上げた。
「はあーなかなか考えたもんだな、どんなもんかと思ったが結構使えそうだな」
突然横取りされたヨーラは不機嫌そうな顔をしている。
「もうこれの材料がないのか?」
「はい、落ちてるゴミを使って作ったので」
彼女がそう答えると男はふーんと言いながら近くの柵へと工具を手に歩いていった。そして刺さっていた釘を抜き解体し始めた。
どんどん手際よく釘が抜かれていく。それを見たほかのケンタウロスが慌てて彼の元へと駆け寄っていく。
「おっおい、なにしてんだよ。荷物は最小限て言っただろ、それ持ってくつもりか?」
「ほらお前も手伝え、縄を切ってくれ」
ぽいと短剣を渡された小太りの男は視線をさまよわせながら困惑している。相手がこれ以上説明してくれないと思ったのかしぶしぶ手伝い始めた。そこへさらに数名、様子を見にやって来た。
「その柵は置いてくぞ、なにやってんだ。馬が逃げちまうよ」
「馬を杭に繋いでおいてくれ、見てないでどんどん解体しろ。木材がいるんだ」
数名は何事かと口々に文句を言っているが仕方なく作業に取り掛かった。傍らには取り出された木の板と釘が積まれてゆく。
俺たちはそれを使い早速盾作りを再開した。徐徐に人が集まり始め木材や補強するための素材もそろってゆく。遠くのほうでは武器を研ぐ金属音が聞こえる。
日が落ち辺りもすっかり暗くなった頃、一旦作業を中止した。火の明かりだけではどうしても手元が良く見えないし、なにより危険だ。一日ちょっとだったがそれでも結構な数を作ることができた。皆くたくたで少年は地面に横たわって寝てしまっている。ピヨも横で翼を広げ寝息を立てている。
「あーあこんなところで寝たら全身痛くなるぞ、子供だから大丈夫なのかな、うらやましい……」
独り言をつぶやく俺の傍をヴェロニカが通り過ぎていく。
「なんかうるせえと思ったら工作なんてしてやがったのか」
彼女は置いてある工具を手に取り出来上がった盾をしげしげと眺めている。彼女はつかれたーといいながら歩いているカルベネの襟をぐいと掴んだ。
「え、あ姉さんおはこんばんわー、夜番よろしくーじゃあおやすみなさい」
「暇だろ、私の遊びに付き合えよ」
そう言うと彼女はカルベネに作業の続きを命じた。
「えっええー私はもうくたくたなんだけど、兄さん助けて……」
「よかったなまた楽しめて、それじゃあおやすみ」
俺はカルベネに手を振って地面で寝ている二人を抱えた。