第175話 人間の武器
夜に突然ケンタウロスたちが戦いへと向かってしまった
テントから次々と人が起きてきて帰ってきた男たちを迎える。俺も体を起こし様子を見に行った。皆、息を荒げ命からがら逃げてきたという感じだ。しかもあきらかに出て行ったときより人数が少なくなっている。
中には腹を押さえぐったりとしている人もおり、両脇を仲間に抱えられ体を引きずっている。俺は近づいて傷跡を見た。どう見ても剣や弓、魔法ではない。大量に血がでていてよくわからないがまるで銃弾で撃ち抜かれたような形だ。
仲間は彼の傷に布を当てテントの中へと運んでいった。俺はその後姿を呆然と見つめた。
まさかこの世界にも銃があるのか……自分が勝手にないと思っていただけで。自然と鼓動が早くなる。ヨーラの声で俺は現実へと引き戻された。
「どこ?ねえ、アーグナがいないの!それに他の人は?!」
彼女は行き交う人たちの間を縫って必死にアーグナを探している。
「彼も一緒に行ったの?」
「あのあとすぐに止めに行くって、出て行って。それにまだ帰ってきて無い人もいる」
彼女は辺りをしきりに見渡しいるはずの姿を探している。しかし怪我人が運び出された後でも彼の姿は見えなかった。
ヨーラは喧騒を背に町の方を一人でじっと見つめている。
俺はとりあえず怪我をした人を回り手当てを手伝った。幸いにも治癒士が数名いたため、なんとか命は助かったようだ。
夜が明けてやっと一息つくとそこには昨日と変わらぬ姿のままヨーラは町の方を見ていた。俺は戦いへ向かった一人に話を聞いてみることにした。水場で水を汲んでいた男に声をかけた。
「すいません、なにがあったのか詳しく教えてくれませんか?」
俺の姿に彼は一瞬眉をひそめたがめんどくさそうに語りだした。
「えー、ああ、俺たちはタッドについて行ったんだ、昨日な。そうしたら人間どもはすでに待ち構えていたんだ、たぶん遠くから見てたんだろう。そんであいつらは町の壁の上から攻撃してきたんだ、でもよこっちが矢を射る前にやられちまった」
そう言って男は肩をすくめた。
「なんか鉄の筒みたいな武器でよ、暗くてよく見えなかったし俺は遠くにいたんだけど突然バーンで音がしてな、前のやつらがバタバタ倒れ始めたんだ。俺は初め魔法か花火かと思ったけど火は見えなかったな」
「そうですか、あのアーグナっていう青年がいたと思うんですけど」
知った名前に彼は苦い顔をした。
「あーアーグナな、途中で俺たちが負けそうになったとき助けに来たんだよ、人間の野郎が馬に乗って俺たちの仲間に縄をかけ始めたんだ。アーグナはそいつらを逃がして自分が捕まったってわけ」
話が終わると彼は桶を持って歩き出した。俺は今だ遠くを見つめているヨーラにそのことを告げた。
彼女はぎゅっと目をつむり声を殺して涙を流した。