第170話 ハーピー族の母
寄ったケンタウロスの集落で悪くなったフィリアナの蹄を直してもらった
俺はフィリアナが大丈夫そうなことを確認して近くの川に水を汲みに行った。そこまで遠くないはずだがバケツ一杯汲むのでも一苦労だ。
「あらお疲れ様」
ドスンと地面にバケツを下ろした俺をエレナーゼが涼しげな表情で迎えた。
「はあ、はあ結構しんどいな」
「いい話と悪い話があるんだけど、一つはこの集落に水道が引いてあること。もう一つはあなたの努力が無駄ってことね」
彼女の視線の先には簡素ではあるが水汲み場が作られていた。俺はその場に座り込んで汗を拭いた。
「先に言ってくれよ……」
「あなたが行った後気づいたの」
過ぎてしまったことは仕方が無いので少し休憩を取ることにした。後ろを振り返るとピヨがローレンに本を読んでもらっている。ポリーンは疲れてしまったのかクモの腹に寄りかかって眠っている。
「仲良くなれたみたいで良かった。ところでなんでフラワーハーピーって言うんだろうな」
俺はピヨを見てふと浮かんだ疑問をエレナーゼに聞いてみた。
「諸説あるわね。花のように綺麗な羽の色をしているとか単純に花が好きだからとか」
「ふーん、まあそうだよな。同じ種族のように見えて結構違うよな」
すると彼女はそうね、と返事をして言葉を続けた。
「ねぇハーピーの起源を知ってる?初めのハーピーは三人の姉妹だったと言われてるの。確か名前はアエロー、オーキュペテ、ケライノーだったかしら。名前の由来は疾風、速く飛ぶもの、黒い雲、それぞれ三種族の母親と言われてるわ。まあ本当かどうかわからないけど」
「ちなみにその疾風がフラワーハーピーなのか?」
「ええ速く飛ぶものがハンターハーピー、そして残りの黒い雲がダークハーピー」
そう言ってエレナーゼはテントの中に入っていった。
「あ、そうだ忘れてた確かもう一人いた気がする。速く走るものだったかしら?」
ちょっと頭を出して付け加えた後またテントへ引っ込んでいった。
しばらく自由な時間を過ごしていると俺たちのもとへ一人の男がやってきた。青みがかった馬体に同じ色の髪、眉間に刻まれた深い皺はどうも友好的ではなさそうだ。
俺は立ち上がって男へ挨拶をした。しかし彼はこちらを一瞥すると眉間の皺をより深めた。
「なにかと思えばこんなねずみどもを迎え入れやがって、アーグナ、あのガキめ余計なことばかりしやがる」
男はフンと鼻を鳴らした後、後ろ脚で土を蹴り上げ不機嫌そうに仲間のもとへと戻っていった。彼が姿を消した後、入れ替わるようにアーグナがやってきた。
「ごめんよタッドおじさんはちょっと気難しい人でさ、気にしないでくれ」
そのタッドおじさんは目の前のアーグナをとても嫌っているようだった。俺は彼に大丈夫であることを伝えた。