第167話 夜の小話
ローレンに魔術について相談を受けた
しばらく進み日が沈んできたため適当な場所で休むことにした。夕食も終わり皆が順に眠りにつく頃、荷車の中からヴェロニカが姿を現した。
彼女は伸びをした後、不機嫌そうな顔で焚き火のそばにある丸太に腰掛けた。
「あ、こんばんわ」
俺からの挨拶に彼女は片手を上げて答える。
「宿をとってくれてありがとう、すごく助かったよ」
あきらかな年上にため口は少しどきどきしたが、彼女は特に気にしていないようだ。いつも夜更かししているピヨも寝てしまい遠くで聞こえる動物の鳴き声と焚き火の音以外、辺りは静まり返っている。
「こんなこと言うのもなんだけどさ、俺たちについてきて大丈夫だったのか?なんか有名な家柄っぽかったけど」
彼女はポケットからつぶれたタバコを取り出して一本口にくわえた。
「別に、あいつらも私が邪魔だっただろうから」
きっとあいつらとは姉を含めた家族のことだろう。
「そっか……その、お姉さん綺麗な人だったね」
俺はなんと言って良いかわからずなんとなく思い出したことを口にした。ヴェロニカはああ、とだけ答えてタバコに火をつける。
「俺さ兄弟とかいないから、あんな喧嘩とかしたことなくって。もしかして本当に心配してたかもよ?」
「そうだな。始めは私もまじめにやってたさ、でもよどんだけ努力しても言うことはお姉さんを見習いなさい、それで二十歳で切れたわけ」
彼女はどこから持ってきたのか酒瓶をとりだし一口飲んだ。
「なんだかんだ言ってただ嫌になって逃げてるだけかもな、ときどき自分が馬鹿みたいになるよ。まあ、本当に馬鹿なんだろうけど」
言葉とともに煙を静かに吐き出す。姉の言うとおり道をはずれてしまっているのかもしれない、でも俺には彼女が劣った存在には見えないのだ。まあ見た目はちょっと怖いが。
「そんなことないだって何度も助けてくれたじゃないか。キーガと戦ったのすごいと思ったよ。俺には絶対無理だ、勝てないし」
そう言うとヴェロニカはハハハと笑った。
「もとから勝てる算段はなかった、やけっぱちだ」
俺は思わずえっ、と驚いた声を出してしまった。彼女は勝てないとわかっていたのに戦いを挑んだのか?
「お前らが来てるのに気づいてさ、あのちびが向かって行ってるの見て次に繋いでくれると思ったんだよ。根拠ないけどな」
「じゃあ信じてくれた、ってことかな。お姉さんはすごいんだろうけどさ、俺は行動に移せるのはもっとすごいと思うよ。だってどんなに強い力を持ってたって使う勇気がなきゃ宝の持ち腐れだからね」
ヴェロニカはサッと焚き火に砂をかけて火を消した。
「ガキに気つかわれちゃかなわねえな、ほらさっさと寝ろ」
俺は言われたとおり寝袋に潜り込み、目を閉じた。