第163話 歩くレディーキラー 2
ヴェロニカが宿について聞いている間、バーでカルベネの知り合いに出会った
そういうわけでなぜか俺はカルベネとその知り合いであるイケメンのサテュロスの男と一緒に酒を飲むことになった。ヴェロニカには待機しているほかのみんなを連れ、先に宿へ向かうように伝えた。
「ああ懐かしいねまさかこんな場所で知り合いに出会えるなんて。あっ僕はタルヴェルよろしく」
「えっと俺は亜李須川、二人は、その知り合いかな?」
気まずいこの空気に彼はものともせず俺の質問に答える。
「知り合い?うーん今はね」
「こいつは村中の女に手だして追放されたクソ男だ。ついたあだ名は歩くレディーキラー」
調子の良いタルヴェルにカルベネは不機嫌そうに答えた。
「ははは、人聞きの悪い。僕はただみんなに愛を配っただけ。女性は皆愛される権利がある、そして愛するのは僕に下された使命さ」
「人の女に手を出してもか?」
こんな歯の浮くような台詞を言っているが要は女遊びのしすぎで村から追い出されたのだろう。
「わかってないなぁ、もし彼女の夫が毎日しっかりと彼女を愛してあげていたのなら僕なんて必要なかったはずだろう?」
そう言って彼はグラスを傾けた。俺はカルベネは……?と聞いてみた。
「ふふっそうだね君だけは僕になびかなかった。始めはだれか意中の人がいるのかと思ったけど、気の強い人も好きだよ、僕は」
彼はするりと自分の手をテーブルの上のカルベネの指先へと滑らせた。彼女は見向きもせずにすかさず手を引いた。
「ハッ、全ての女とか言ってどうせ顔だろ?綺麗ごと言ってんなよ」
「いやいやそんなこと、いや、ふふ確かにそうだね。顔は生まれつきのもの、どう頑張ったってそうは簡単に変わらない。ほとんどの人はまあ、良い、とは言い切れないね」
カルベネはほらな、と言うように彼のほうを見た。
「でも大切なのはそこからさ、よく厚化粧の詐欺とか騙されたとか言うだろ?でも僕は素敵だなって思うよ、だってそれだけ美しくなるために努力できる人ってことだもの。次に会うとき違う色の口紅をつけてきたらもしかして僕がそうさせたのかな、って思ってどきどきしちゃうよね」
いいことを言っているような気がするがいまいち頭に入ってこない。そして隣にいるカルベネはまるで彼など存在していないかのようにグラスの酒を一気にあおった。
「ねえ、君は口紅なんてつけて無いねそれなのにどうしてそんなに綺麗なのかな」
「ふざけたことを抜かすのはやめろ、ぶん殴るぞ」
するとタルヴェルは彼女の頬にそっと手を添えた。
「僕がどれだけ本気か、今夜試して見るか?いい女は男を作るってよく言うけど、女を綺麗にするのはいい男さ。相手の面を馬鹿にする前に自分が美人にしてやるって思わなきゃ、でしょ?」
「……ぶん殴るって言ったよな?」
「ふふ、覚悟の決まった顔も素敵だね」
彼がそう言ったとたんカルベネは片手でタルヴェルの角を掴み、隣のテーブルにあった空き瓶を顔面にたたきつけた。ゴンという鈍い音と共に彼は顔を手で覆い背を曲げた。かわいそうに鼻からは血が出ている。
「二度となめた口きくなよ、いくぞ」
カルベネは振り返ることなくそのまま店を後にした。背後からはなんだってそんな男についていくんだ……、と小さな声が聞こえた気がした。