第161話 強くなるための魔法
寝るためのハンモック作りでひっくり返ってしまったローレン
夜が明けてまたも余計な誤解を増やしつつ俺は目標となる町へと足を進めた。のどかな森の道が続いており、俺はひさびさの平和な時間に心を落ち着かせていた。
ピヨは相変わらず読めない本をじっと見つめている。
「おい歩きスマホ……じゃなくて歩きながら本読んだら危ないぞ」
「わかってるよー」
そう言いつつ転びそうになっているのをポリーンに助けてもらっている。魔法といえば以前ゲームでスピードを速くしたり、力を上げたりする呪文があったことを思い出した。俺は後ろのほうで歩いているエレナーゼに話しかけた。
「なあ人を一時的に強くしたり足を速くしたりする魔法ってあるの?」
「ええ、あるわよ」
その回答に俺は少し希望を持った。なぜならその魔法があれば貧弱な俺でも強くなることができるからだ。
「その魔法できるか?やってみてくれよ。力の上がるやつがいいな」
心を躍らせている俺とは対照的にエレナーゼは短いため息をついた。
「やめておいたほうがいいわよ、そんないいもんじゃないから」
「うっまたなにかあるのか?終わった後疲れるとか?」
彼女はそれもそうだけど、と相槌を打った後説明を始めた。
「まずその身体強化魔法っていうのにも種類があるの。一つは本人の魔力を利用して重いものを持ち上げたり、動きを速くするもの。もう一つは、そうねぇ制限を解除するものと言うべきかしら」
やはり一筋縄ではいかないようだ。彼女は頭を後ろ脚ですばやく掻いた後、話を続けた。
「一つ目はだめね、あなたには魔力がないから。人ってね自然と自分で限界を作るものなの。それはこれ以上やると自分の体を壊してしまうって体自身が知っているから。二つ目の魔法はその制限をはずすもの、痛みも感じなくなるし疲れも感じない、最強の戦士を作り出せる。狂戦士って言うのかしら」
「いやーやっぱりやめときます……」
いい考えだと思ったが俺はずっと貧弱なままのようだ。まあそんなに簡単に強くなれるなんておいしい話はない、力には代償がつきものだ。
「ふふ、戦争なんかでは使われてたみたいだけど今では禁術になってるわ。ちきんと使いこなせる人はそうそういないから」
そんな他愛も無い話をしつつ歩みを進めているとだんだんと整った道が見えてきた。もう町も近いだろう。
「もうすぐですね今日はもう遅いので一晩待って、明日の朝町へ行きましょう」
フィリアナの言葉に皆寝る支度を始める。すると荷車の中からヴェロニカが体を起こした。
「あらおはようございます、もう朝じゃないんですけどね。そういえばダークハーピーの皆さんはなんと言うのでしょう、いい夜ですね、でしょうか?」
ヴェロニカは挨拶をするフィリアナを無視し、町へと歩き出した。
「えっ?もう行くのですか?」
「知り合いに会って来る。この人数で昼間堂々と町中を歩くつもりか?」
そう言うと彼女は再び歩き出した。