第158話 昇る朝日
ヴェロニカが新しい仲間になったが彼女の姉により引き留められた
さきほどの兄弟喧嘩ならぬ姉妹喧嘩の影響で、皆静まり返っている。気まずすぎてだれも声をかけられないのだ。ヴェロニカも黙って歩いている。
俺は聞いておきたかった手紙のことを思い出し鞄から取り出した。
「あの、ヴェロニカさんちょっといいですか、聞きたいことがあるんですけど……」
俺は静寂を破り親しく無い上司に話しかけるように手紙を差し出した。
「俺たちはダークエルフを追ってずっと旅してるんですけどこれに見覚えありますか?」
彼女は手紙を受け取り文面に目を通すと顔をしかめた。
「なんだ?このガキが書いたへたくそなポエムみたいな文章はよぉ」
「えっそうですよねーところで俺は亜李須川 弘明と言います、よろしくお願いします」
やはり彼女も何も知らないようだ。俺は彼女から手紙を返してもらった。顔を上げると朝日が昇り始め、辺りを白い光が照らし始めている。
「あのーダークハーピーって昼間は寝てるんですよね大丈夫なんですか?」
「ヴェロニカでいい、さんはつけるな。そうだな、日光には当たりたくないが……」
ここで無理されても困る。なにせ昨日の今日だ、キーガとの戦いの傷がまだ癒えていないだろう。俺はフィリアナの引いている荷車を片付け少しスペースを作った。
「狭いんですけどここにどうぞ」
「悪いな」
彼女は一言返事をするとその狭い荷車の後ろに横になった。俺は日光が当たらないよう荷物にかけていた布をしっかりと被せた。
その後しばらく皆、無言のまま歩みを進めた。日が完全に昇り始めたころフィリアナがポツリと口を開いた。
「ヴェロニカさんのお姉さんてきれいですけどちょっと怖いですね」
すると堰を切ったようにみんな口々に話し始めた。
「いやぁーまいったねーあの感じ胃にぴりぴり来るよ、まあべっぴんだったけど私はあんな姉さん嫌だなぁ」
カルベネが酒瓶を片手にのんきに答える。
「う、うんピヨもびっくりした。だって優しそうだったから。でもなんであんなに怒ってるんだろう?おうちから出て行くって言ったからかなぁ?」
「私もわかりませんがきっとそうかもしれないですね」
ピヨの言葉にポリーンがうんうんとうなずく。
「なんだかわたくしの兄さんを思い出しました、元気にしているかしら」
俺もフィリアナと同じく彼女の兄を思い出していた。いつでも帰って来いと言った彼と、二度と帰ってくるなと言ったヴェロニカの姉。
「同じ兄弟でもいろいろあるんだなー。ところで俺たちはどこに向かってるんだ?」
「む、確かに。私はてっきりアリスガワが知っているのかと」
シャリンの言葉にみんな私も、と同調する。
「いやいや俺も知らないよー」
「この先に大きな町がある。二、三日かかるがそこを目指せ」
荷車の後ろから聞こえてきた声に俺たちは再び静かになった。