第157話 曇天
一通り決着がつき休もうとするも元気なピヨに叩き起こされてしまった
次の日の早朝く俺たちは村長夫妻に礼を言って村を後にした。改めてもっと泊まっていかなくてもいいのか聞かれたが、約束があるといって断った。
言われたとおりダークハーピーの村へ向かうと、約束どおり女が入り口でタバコをふかしていた。彼女はこちらに気づくと最小限の荷物とともにゆっくりと近寄ってきた。
「来たな、いくぞ」
そう言うと俺たちを通り越して歩き始めた。
「ちょっと待ちなさいヴェロニカ!」
透き通るような美しい声に、皆一斉に振り返る。女一人を除いて。
視線の先にはすらりと背の高いダークハーピーの女の人が立っていた。なだらかな肩につやのある長い髪、細い手足に白い肌に浮かび上がる紅色の唇。まるでモデルのような綺麗な人だ。
「こんな早朝にどこにいくの?もうすぐ日が昇るわ」
彼女の問いかけに女、もといヴェロニカは何も答えないどころか振り向きもしない。
「ねぇ聞いているの?あなた今度は何をするつもり?いつもいつも迷惑ばかりかけて、少しは考えて行動したらどうなのよ」
「……べつにお前には関係ねぇだろ」
ここでやっとヴェロニカが口を開いた。
「関係ないって、私はあなたの姉なのよ。もう二十七にもなってそんな不良みたいな格好して、いい加減にしなさい」
「そうかよ、心配するな言われなくても出て行くからよ」
姉妹間の修羅場にみんなしんと静まり返っている。
「出て行くってどこに?この、よくわからない人たちと一緒にいくつもり?こんなことばっかりやって、いつまで子供でいるの?いい年になるんだから腰を落ち着かせることを考えなさい」
一方的な質問についにヴェロニカが姉のほうに振り返った。
「第一にこいつらは別によくわからない人じゃねぇ。あんたはただ自分の名前が汚されたく無いだけだろ。自分のやりたいことを私に押し付けるな」
反抗的な妹に彼女は目を潤ませる。
「私はあなたのためを思って言ってるのよ!いつだってそう、どうしてわかってくれないの?馬鹿みたいな格好してそれがかっこいいと思ってるわけ?!」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ、じゃあよ、腰を落ち着かせるってなんだよ?かわいい顔して男の飯作ってりゃいいのかよ?そんなの絶対ごめんだね。私は一生自分の好きなように生きて行く、従順な妹が欲しいなら岩にでも話しかけてるんだな!」
ついに姉の瞳から一筋涙が零れ落ちた。つややかな頬の上を転がり落ちていく。
「そう!なら勝手にしなさい、どこにでもいけばいいわ!でももう二度とヨーメルラの名は語らないで頂戴」
そう言い放ちくるりと背を向け歩き出すと、途中ぴたりと足を止め振り返った。
「そして二度と帰ってこないで……」