第155話 一本の花束
ダルコーが礼を申し出たところなぜかダークハーピーの女が割って入ってきた
「ちょっとあんたどういうことよ?!あたしたちべつにあんたの奴隷じゃないんだけど!!」
ダルコーたちが去った後早速ニーナに詰め寄られる。
「俺もなんでかわからないよ」
「はあ?!」
この事態を引き起こした当の本人はのんきにタバコをふかしている。彼女はフーと煙を吐くとけだるそうに口を開いた。
「私たちはダークエルフと繋がっている、まあ仲良しこよしってわけじゃねえが商売やるぐらいには仲が良い」
その言葉に不満を口にしていたニーナもしんと静かになる。
「そういえば以前ダークエルフと戦ったときに一人いたよな、てっきりあれはただの雇われ兵だとばかり思ってたけど」
「まあそういうことだ、ところでお前たちどこに行こうとしてるんだ?」
俺は彼女に絶極大地に向かっていることを伝えた。
「へぇ、じゃあそこまでは送っていってやる。だがそこで解散だ」
「あんた村から離れてもいいわけ?家族とかいるでしょ?」
女はふかしていたタバコを捨て足でもみ消した。
「別に、このごみ溜めみてぇな場所から出られるならなんだっていい。明日の早朝、入り口で待っている」
ニーナの問いかけにそう答えると彼女はどこかへと消えていった。
その後日も落ちてきたので俺たちは一緒に作業をしていたフラワーハーピーたちと村へ戻ることにした。そこへイヴァンもついて来た。
「大丈夫なのかい?家に帰らなくても?」
村長は心配そうに彼の顔を見つめる。それにイヴァンは弱々しい笑顔で答えた。
「はい、その、今は彼女に会いたいんです、もしお父さんがよければですが……」
「ああ、ぜひとも会ってあげて欲しい。娘はずっと君のことを待っていただろう、なにも言わないがきっとそうに違いない」
村に着くと村長の奥さんをはじめ、村中の人が駆け寄ってきた。皆自分の家族が無事だったことに喜んでいる。村長は避難していたダークハーピーたちにも、もう安全だと伝えた。
皆が安堵の涙を流す中、イヴァンは浮かない表情をしている。
「どうしたのですか?彼女に会いにいかないのですか?」
「うん、いや俺がもっと早くに勇気を出せていたらもしかして結果は変わっていたかもしれないと思うとな」
神妙な面持ちの彼にフィリアナは小さくため息をついた。
「なに言ってるんですか、あなたが勇気をださなきゃいけないのはこれからなんですよ」
すると家からリリーが母親とともに家からでてきた。彼女はイヴァンの姿を見るとふと顔をほころばせた。しかしすぐにもとより険しい表情になり、家の中へと引き返そうとする。
「待ってくれ!リリー」
彼は帰ろうとするリリーの肩を掴んだ。
「遅くなってすまない俺はもっと早くに来るべきだった、だけど聞いて欲しい」
必死な彼を彼女は涙ながらに押し返した。
「いえ、帰ってあなたはここにいるべきじゃない、私のことはもういいの、家族の元へ戻って。幸せになってね……」
「俺はずっと前から君のことが、え、あ、好きだったんだ。こんな形になってしまったけど俺は君を諦めきれない」
しかしリリーの顔は暗いままだ。
「そう、ありがとう、だけど私はもう以前の私じゃないの。あなたに見合うほど綺麗な女じゃない、さ、帰って。私のことはもう忘れて」
「いや俺は帰らない、君が俺を認めてくれるまでたとえ何十年経とうとも毎日君に花を届ける」
彼は近くに咲いていた野花を一本手折った。
「これが一本目、受け取ってくれるまで届けるよ」
手渡された細い花を彼女はそっと手に取った。