第125話 釣り名人のフックハンガー
スタンレイに見送られ次の村を目指す一行
俺たちはケンタウロスの村を後にし、紹介してもらったフラワーハーピーの村を目指して歩みを進めている。だんだんと北に進むにつれ日中の気温が上がってきているように感じる。
次の目的地までは少し距離があるので途中で野宿になるだろう。
しばらくして小さな川が見えてきたのでそこで昼食をとることにした。買ってきたミートパイを食べながらふと川のそばに生えている木を見ると、枝の上に動物がじっと座っている。
以前目にした地面を歩くコケセとは形が違うが、同じように動かない。なにより特徴的なのは自身の体長より倍以上も長い尾で、先端には鎌のように湾曲した爪がついている。それを木の上から水中に垂らしている。
「兄さんなに見てんの?あっあれ?あれはフックハンガーって言ってああやってずっと魚をまってんのさ」
「へえー」
俺はふらりと歩いてきたカルベネの言葉にうなずいた。
「魚が来ると尾で引っ掛けて釣り上げんの、ほら!」
ちょうどそのとき木の陰にやってきた魚を尾の先端だけをヒュッと曲げつかまえた。その後垂れ下がった尾を自分で回収し、ゆっくりと食べ始めた。
「なんだ自分でしっぽを巻き上げるのか」
「そうだよ、長すぎて力が入らないんだ。だから地面ではずるずる引きずってんだ、なかなか滑稽だよね」
おそらくナマケモノのように必要な部分意外の筋肉は極力おとしてエネルギーを節約しているんだろう。
「でもいいよなー俺もああやって一日中じっと魚を待ってのんびり暮らせたらなー」
「なに言ってんだ、あいつらは日々良い釣り場所をめぐって戦ってるんだぞ。交尾相手を取り合うときより派手にけんかするんだ」
やはりそんなおいしい話はないに決まっている。彼らにとっていかに良い場所取りができるかどうかで命に関わってくるのだから当然だ。
その晩俺たちはニーナが見つけた洞窟で一晩を明かすことにした。ちょうど雨も降ってきたので屋根のある場所で過ごせるなんてラッキーだ。
焚き火を消し、みんなが寝始めるころランタンの明かりでピヨは魔法の参考書を片手に頑張っている。
「どうだ?前よりできるようになったか?」
「うん、でもできないときのほうが多いんだ」
するとそこへエレナーゼがやってきた。
「頑張ってるところ申し訳ないんだけど、あなたあまり魔法の才能がないんじゃないかしら。こんなにも長時間魔法石に触れているのにあなたからそんなに魔力を感じないのよね。気を落とすことはないわ、だれにだって向き不向きはあるもの」
そう言うと彼女はするりと洞窟の奥のほうへ歩いていった。
ピヨは少しの間黙っていたが、でも頑張ってみるねと言ってまた本を見始めた。エレナーゼは親切のつもりだったのだろうがたとえ本当のことであってもあまり言わないでやってほしかった。
ピヨがあまり深く物事を考えるタイプでなくて良かったと思った。