第108話 地獄の犬 2
二手に別れ地獄の犬と戦うことにした一同
ピヨは俺の提案どおり走り出すと空へと舞上がった。二頭の犬はその動きを追いかけ激しく吠えながら彼女に飛び掛ろうとする。
しかしすんでのところで届かなくなり前足を上げ空に向かって吠えている。
この隙に俺は近くに落ちていた木の皮を拾ってベルトで左腕に固定した。心もとないが無いよりはましだろう。
三人は一頭に攻撃を仕掛け始めた。
「エレナーゼ魔法でもう一体を攻撃できるか」
「やってみるわ」
そう言うと背から火の玉を放った。着弾したところから火の柱が犬の周りに上がる。
相手はこちらを見ると攻撃を避けながらものすごい速さで駆け寄ってきた。距離がぐんぐんと狭まっていく。この間にもエレナーゼの魔法はことごとく避けられている。
「だめっ全然当たらない……!」
あっという間に目の前まで来ると犬は口を開けこちらに飛び掛ってきた。俺は左手に巻いていた木の皮を盾にし、犬の口へと押し付けた。
しかし間近で見ると思っていたよりもさらに大きく、俺はやすやすと地面へと押し倒されてしまった。
バリバリと音を立て木の皮がおがくずになっていく。このままでは俺の腕ごと食いちぎられてしまう。全身から放たれる熱気に皮膚がひりひりと焼かれる。
俺は持っていた短剣を犬の肩に突き立てた。しかし興奮しているせいなのか全く意に介していない。恐怖から干上がったのどがグッと痙攣する。
先ほどの野良犬の姿が頭をよぎったとき、横からバシャっと水がかけられた。
シュウという音を立て熱が引いていく。冷や水を浴びせられた地獄の犬は突然の事態に口を離し、回りをきょろきょろと見回している。
その隙に俺は剣を引き抜きもう一度突き刺した。今度は驚き甲高い声を上げ俺の上から飛び退く。
一度冷静になり周囲を確認するとカルベネの姿がない。
「なあカルベネを見なかったか?」
「さあ知らないわそういえばさっきから姿がないわね」
エレナーゼも見ていないとは、あいつまさか言葉どおり自分だけ逃げたのか?!
とりあえず今はそれどころではない。どうやらポリーンが近くの井戸から水を汲んできてくれたようだ。
「エレナーゼ、そいつは任せた」
俺の言葉にエレナーゼは了解と一言返事をした。その間に俺はポリーンと一緒に水を汲みもう一体にもかけた。
またも突然炎を消された地獄の犬は同じような反応をとり、体を震わせ縮こまった。