第105話 闇に堕ちたダークエルフ族 1
盗まれたワインを取り戻したお祝いにカルベネにしこたま酒を飲まされてしまった
次の日カルベネは腰に短剣を差し、ヒョウ柄の毛皮を肩に巻いて現れた。
「兄さん準備はいいか?よしいくぞっ!」
彼女は意気揚々と森の中を進んでいく。しかし俺は昨日の酒のせいでなんだか頭が重い。
「俺以上に飲んでいたのに元気だな……」
「言っただろ?私の血にはワインが流れてるってな」
冗談だと思っていたがなんだか本当な気がしてきた。
「それってすなわち、ずっと酔っているということですね」
後ろからフィリアナがあきれたように言う。だがなんだか表情がすぐれない様子だ。
「なあ、大丈夫か?なにか心配ごとがあるのか?」
俺の言葉に彼女は目を逸らし少しうつむいた。
「なんというか、あれから少し考えましたがやはりセシリアさんの言うとおりな気がして。わたくしこれからやっていけるのか不安です」
「そんなことない、結局事件の犯人に追いついたのはフィリアナじゃないか」
フィリアナはそうですが、と言ってうつむいたままだ。
「怖くなってしまったんです……。あのとき出会った彼は私よりはるかに強い存在、戦っていませんがそう感じました。そんな彼があんなにも簡単に倒れるなんて。私もそうなるって思うと……」
「確かにな、でも全然弱い俺がまだ生きてるんだからもっと自信持っていいと思うけど」
俺が照れ隠しに笑うと彼女は何かに気づいたようにふと顔を上げた。
「あっすいませんそうでしたね、ヒロさんのいた世界はもっと平和だったんですよね。それが突然知らない場所に一人で来てしまって……わたくしヒロさんのこと守りますね」
そう言うとフィリアナはにっこりと笑った。なんだか違う気がするが元気を取り戻してくれたのならそれで良しとしておこう。
その後俺たちは森の中の小道を歩き続けた。昼食を取ったあともうしばらく進むと遠くのほうに集落がちらりと見えた。
「あれがダークエルフの村か」
「うむ、アリスガワどうする?このまま行っても返り討ちに合うかもしれない」
シャリンのいうとおりにこの少人数で行っても話すらまともにできないかもしれない。カルベネの仲間に来てもらうか?それとももう一度エルフ族に協力を申し出るか。
俺が選択に迷っているとシャリンが俺の肩をつついた。
「考えているところ悪いんだがセシリアの姿が見当たらない」
慌てて辺りを見渡すとダークエルフの村へと一人で向かっていっている彼女の後姿が見えた。