第102話 夜の鳥
盗賊の馬車から飛び出してきた謎の黒い陰にシャリンが押し倒されてしまった
シャリンは黒い人影に押し倒されその喉元には鋭い刃物が突きつけられており、彼女はそれを必死に抑えている。
黒い人影をよく見るとハーピーのように羽が生えているのが確認できた。それはカラスのように真っ黒で腰からは長い尾が伸びている。
俺は咄嗟にその羽の生えた尾をつかみ横に引き倒した。それに合わせシャリンが下から蹴りを入れる。
背後から不意打ちを食らった人物はバッと身を翻し起き上がるとこちらをじっと睨みつけた。ランタンの光が瞳に反射し猫のようにオレンジ色に光っている。
すると後ろのほうから遅れてやって来たカルベネたちの声が聞こえてきた。
それを聞くと目の前の人影はサッと暗闇へ姿を消していった。他の盗賊たちも援軍に怯み皆夜の森へ散って行く。
「兄さんー大丈夫だったか?いやー突然行っちまうから驚いたよ」
「フィリアナは大丈夫なのか?」
俺の問いにフィリアナは颯爽と姿を現した。
「わたくしなら大丈夫ですよ」
荷馬車を調べると沢山のワインがでてきた。皆、自分の家のワインが無事だったことに飛び跳ねて喜んでいる。
「よしこのまま馬車ごと連れて帰ろう、それとこいつもな」
シーレノスの男に先ほどの盗賊の仲間の一人が捕らえられている。小柄でやせているところを見るとこいつが酒蔵に忍び込んだのだろう。
ケンタウロスの男はフィリアナの方を見てまたもフッと息をもらした。
「なんだあんたもなかなかやるもんだな」
「戦いに来るのなら防具の一つでもまとってきたほうがよろしいですよ」
フィリアナは長い緑がかった髪をさらりとかき上げた。
「ははは、きれいな嬢ちゃんに言われちゃかなわないな」
そう言うと男はもと来た道を帰っていった。
「き、きれい、ってなんですか?!もう、からかうのはよしてください」
フィリアナは男の後姿に顔を赤くして怒っている。
「なんだ俺は普通にきれいなほうだと思っていたんだけど」
「うむ、私もそう自負しているものだとばかり」
俺とシャリンの言葉にさらに耳まで赤くしている。この暗さでもわかるくらいだ。フィリアナは顔を両手で覆いながら駆けだした。
「ところであの黒いハーピーはなんだったんだ」
俺の言葉にシャリンは首を傾げる。
「さあな、私にもわからん。ものすごい速さだった。た、助かったぞありがとう」
俺たちも馬車の後ろに続き歩き出した。