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くつうとはくるしくていたいということ

きっとコレより苦しいことも痛いこともこの広い世界には沢山あるのでしょう。

しかしながら、そんな比較は無意味。まったくもって無意味。

苦痛を経験したことのある---そう、貴方になら分かるはず。


某氏「こんな程度(鼻笑) 俺のほうがはるかに苦しく辛かった」

某湿原氏「だからナンだ、それがどうした。お前の苦痛がオレより勝っていたからってオレの苦痛が軽減されるのか? あ”あ”っ⁉」


つまりそういうことです。

 唐突ですが皆さん、「腰痛症」という言葉をご存じでしょうか? 

 いや、捻りも何もなく文字通りの意味なのですが、しかしながら「ようつう」とは口にしても「ようつうしょう」とはあまり言わないと思うので。

 もの凄く大雑把にいうと、背骨を通って腰のあたりにある神経に、何らかの原因で骨があたる病です。

 昨年これをやりました。通称「ぎっくり腰」―――いやもう、凄まじい。

 まともに歩けない、座れない、横になれない、寝返りが出来ない、起き上がれない。まっすぐに立っているつもりなのに正面から見ると「く」の字という背筋……否、腰の歪み。

 その微妙な歪つさは端から見ると実に不気味で、黒髪長髪のカツラを被ればそのままジャパニーズ・ホラーに出演できそうなくらいのシロモノ。

 因みにこれは私の認識ではなく、痛みを堪えつつ懸命に直立不動の姿勢を維持して待ち合わせ場所に立つ私へ向けて、遅れて来た友人が言い放った素敵な客観的評価です。

「うわ、気持ちわるっ」

 第一声がそれでした。

「いやぁー不気味不気味。たまげたね。凄いよしつげん。凄い気持ち悪いよ君!」

「…………」

「ぜひぜひ黄昏時に井戸の横へ立ってみてくれたまえ! そのままホラー映画に出演できるから! うん、私が保証する!」

「……二十分遅刻しての第一声がそれかい (-_-メ)」

「あははー、すまないー (^▽^;)  ……(こちらを一瞥して)…ぶっフォぁッ‼」

 失笑からの爆笑。更に倍。何かのスイッチが入ってしまったらしく、私を指さし(決して真似してはいけません。大変に失礼な行為です)右の肩と左の肩の高さが違うと吹き出しながら、如何に不気味で気持ち悪いかを語る友人。友人、友……ユウジンってなんだっけ?

 まったく以て酷い言い草だと憤慨しつつ、しかしながら頭の片隅では無理も無いと納得もしていました。

 なにせ現状、私は「気を付け」の姿勢をしても、頭と腰と揃えた踵が一直線に繋がらない。前述の通り正面から見ると「く」の字なのです。街中を歩く人体としてはシュールに過ぎます。もじもじ君なら許されても、一般ピーポーたる私に許されるわけがないのです。

「顔もなにかホラーチックに怖いよ、うん。ってか窶れたねー。いや、萎びた? 目の下の隈はお約束として、瞼は晴れているし眼には光も力も無い。ゾンビかな?」

 とはいえ、言い方というのは勿論あります。デッ〇プー〇の悪友ウィーゼルでもあるまいに、イイ歳をして口の利き方も知らないとは言わせない、ええ言わせませんよあの〇〇〇! ← イイ歳なのだから言葉の使い方……

 当時の私がもう少し冷静であれば、あまりに労わりの無い言葉の暴力に今後の付き合いも考えたでしょう。

 ですが正直、そんな些末事まで気が回りませんでした。

 何度でも言います。ええ、何度でも言いますとも!



 とにかく、痛い。



 二十四時間絶え間なく、どんな姿勢でも、例え寝ていても痛い。とにかく痛い。痛いいたいイタイ。

 脳内麻薬はどうしたの私の脳? もっと気合を入れて出さないと! それとも出してさえこの程度の緩和効果なの!? 

 医者に処方された痛み止めの薬は、その存在意義をまるで果たしていません。もっと自己を主張して欲しいのに。歯医者の麻酔レベルで効いて欲しいのに。

 効いていません。まるで効いていない。痛みのあまり眠れない。もうどれほど安らかな眠りにありつけていないのか。蓄積された疲労のあまりウトウトしても、寝返りを打った瞬間に脳天へと至る激痛で飛び起きる。

 トイレは最悪でした。切実に真剣に大袈裟でも何でもなく、毎日が痛みとの闘いです。便座へ座るときももちろん辛いのですが、真の恐怖はその後のこと。


 水洗ボタンを押して「立ち上がる」。

 もう一度屈んで衣類を身に着ける。


 中腰になる、というただそれだけのことに、今日を生きる全ての気力と覚悟を込めなければなりません。

 阿呆とお思いでしょうか? しかしながら事実なのです。下着を穿く。次いでズボンを穿く―――あまりにも当たり前の、この苦行。

 大地へ二本足で立つ、までのほんの50センチが、激痛の壁となって私の前に立ち塞がる。

 とはいえ、このまま一生トイレに籠り続けるわけにはいきません。

 何より、いい加減にしろ早く出ろと家の者が先程から実に煩くドアを叩いています。無情というなかれ。彼等とてあらゆる意味で切迫しているのです。平日の朝とは、通勤タイムとはそういう時間帯でしょう。

 痛い、苦しい、眠れない。痛い、苦しい、眠れない。痛い、苦しい、眠れない…………コレが三か月ほど続いた……ような。

 一時は目の下に隈を作り、頬はこけ、形相は変わり、職場の人間の上から下までに本気で心配され、凶暴になったと怖がられ、一部の「同士」には訳知り顔で悟りの眼差しを向けられ(ある意味、コレが一番ムカつきましたがな)、もういっそ退職するかどうか(と考えてしまう辺りがもうヤバい)のギリギリまで追い詰められもしましたが、それでも時間はきちんと流れていたのです。

 徐々に徐々に、ほんっっっとーに少しずつ痛みが薄れていき、ゆっくりと腰の位置が元に戻り、「気を付け」の姿勢になると顎とヘソと股下が一直線になり、歩き、座り、眠る。トイレも滞りなく済ませることができるようになり……。

 当たり前のことが当たり前に出来る、その喜び。笑顔も生まれ、心の余裕も出来てきました。

 ああやっと、漸く、まともな生活がおくれる。私の今年はこれからなんですね。もう半分以上過ぎ去っているけれど残りを数えたほうが早いけどそれは置いておいて。

 そうして心に誓いました。今後は重い荷物を持つ時には最大限の注意を払うことを。間違っても持ち上げつつ、顔を背けてクシャミなんぞをするものか。

 などと過去の己の行動を猛省し自戒し、今の自分を、当たり前に体を動かせる事実を心から祝福し、一息を吐きました。一息を吐けました。



 だというのに。



 ……皆様、「頚椎症」というモノをご存知でしょうか? 「けいついしょう」と読みます。

 物凄く大雑把に言うと、首の骨を通る神経に何らかの原因で首の骨があたる病です。

 

続きは腰が治ったら……(またやっちまったよ (´Д⊂ヽ)

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