〔消臭力〕で異世界を制す! ~オナラが臭いサラリーマンの、思いもよらぬ逆転人生~
取るに足らない、そう思っても。
活用法によっては、凄い事になる。
これは、そんな話です。
息抜きに、軽い気持ちで読んで下さい。
楽しんで頂けると幸いです。
危ない!
そう思った時には既に俺は、道へ飛び出していた。
子供がトラックにはねられそうになっていたんだ、しかも可愛い女の子。
放って置ける筈が無かろう、それで俺は。
天高く吹っ飛ばされた。
勢いが有り過ぎて、何時地面へ落下したか気付かない位だ。
その途中で、女神様らしき声が聞こえた。
《心優しき者よ、勇敢な者よ。1つだけ、褒美を与えましょう。》
何でも良いって言うんで、俺は願った。
『臭いを消す力をくれ』ってな。
恥ずかしながら、俺はオナラが臭い。
俺自身が苦しむ程だ、酷いもんだろう?
気を遣ってトイレに駆け込んでも、外まで漏れるんだぜ?
職場が有るビルの屋上、そこが俺の指定席さ。
こうでもしないと、気絶者が出かねないからな。
どれだけ神経を尖らせながら、日々を過ごしていた事か。
普通の人には、大変さが分からないだろう。
だから思わず、願っちまったんだ。
自由に臭いを消せたら、気兼ねなくオナラが出来るのに。
細やかな願いのつもりだったんだ、なのに。
それが、凄い能力へ変わっちまうなんてな。
この時には、思いもしなかったよ。
「よう。あんた、何処から来たんだい?」
スーツ姿で地面へ寝転がってる俺に、気軽に声を掛けて来るなんて。
ここは、元居た世界と近しいのか?
そう思いながら顔を上げると、そこには。
中世ヨーロッパの騎士みたいに、ゴツい鎧を着飾った人間の男が。
堂々と、仁王立ちしていた。
言葉は……日本語?
いや、違う。
胸元に文字らしき物が見えるけど、全く読めん。
アルファベットでも無いし、一体何語?
恐る恐る、俺は答えた。
日本語のままで。
「別の……世界からです。あはは。」
すると相手は、不思議がる様子も無く。
淡々と、こう言った。
「【飛来人】か。良く来たな。」
「は?」
その言葉に俺は、目を丸くした。
飛来人だって! ここはそれが、当たり前の様に起こるのかよ!
納得の行かない俺は、男へ尋ねた。
「飛来人って、何でしょう?」
「あんたが元居た世界では、そう言うのは無いのか? そりゃあ、驚いて当然だな。」
その後男は、俺に色々と説明してくれた。
今居る世界、【イリーガルス】では。
異世界転移・転生は良く有るのだそうだ。
転移者は〔飛来人〕、転生者は【再生人】と呼ばれるとか。
その中には、特別な能力を授かる者も居るらしい。
俺は偶々、臭いを消す力だったと言う訳だ。
異世界転移・転生者の中には、不運にも。
転移時に、壁にめり込んだまま出られなくなったり。
木や石に生まれ変わったりする者も居るって話だ。
それを聞いて俺は、背筋がゾッとした。
同時に、『無事に飛ばしてくれてありがとう!』と。
あの時聞こえた声の主、女神様らしき者に感謝もした。
でも俺、これからどうする?
言葉は何とか成りそうだし、後は食い物と水だな。
うーん……。
悩んでいると男は、こう俺に提案して来た。
「仲間に入らないか? 丁度、人手が足りて無かったんだよ。」
男は【ダリデ】と名乗った。
駆け出しの冒険者らしい、勇者になって魔王を倒すのが夢だそうだ。
その為にギルドへ所属し、クエストをこなして金を稼いでいる。
時折出会ったモンスターを狩って、経験値を上げ。
レベルアップしているのだそうだ。
何かのゲームまんまじゃねえか、俺はそう突っ込みたかったが。
ゲームなんて物は存在しないみたいなので、『通じない』と思って自重した。
ダリデはどうして、俺を誘ったのか?
1つは、本当に人手が足りなかったから。
ギルドには、数人単位のグループで登録し。
それぞれのグループが、自由に活動しているとの事だったが。
洗濯や掃除など、雑務をこなしていた者が。
余りの仕事の多さに、グループを抜けてしまい。
その代わりを探していた、のだそうだ。
もう1つは、俺の能力に興味が有ったから。
臭いを消せる、ただそれだけなのに。
『ユニークなスキルだ!』と、ダリデは絶賛していた。
オナラや体臭、後はせいぜい生ゴミの臭い位だぞ? 俺が役に立てるのは。
個人的には、使えない能力だと思っていたので。
ダリデの反応は、意外だった。
俺と同じ思いを、他のグループメンバーも抱いたらしい。
ダリデがメンバーへ、俺の事を紹介した時。
『要らねえよ、そんな能力』だの、『しょうも無い』だの。
ボロクソに言われたもんさ。
でも、居場所が欲しかった俺は。
一生懸命働いて、一応仲間として認められる様になった。
努力したんだぜ? 凡人なりに。
仲間のクエストに、時々連れてって貰える様にもなったんだけど。
主に荷物持ちとして、やっぱり俺は役立たず?
自他共に凡人と認める様になった、そんな或る時。
事件が起こったんだ、それを切っ掛けにして。
俺の才能が花開いたんだな、これが。
魔法師の【サリエ】って女と、剣技師の【ギャス】って男と共に。
とある遺跡へ入った時の事。
何かの気配に感付いたギャスが、急に足を止めたんだ。
「何かが……居る!」
「モンスター?」
サリエが尋ねるも、ギャスは小声で呟いた。
『分からない、でも手強そうな奴の臭いがしたんだ』ってな。
余りに緊張していたのか、顔が強張ってたんで。
冗談のつもりで俺は、こう言ってやったんだ。
「何なら俺が、その臭いを消してやろうか?」
すると案の定、サリエとギャスは。
『ふざけるな』と言った目付きで、俺を睨んで来たんだ。
「遣れるものなら遣ってみなさいよ!」
「洒落になってねえぞ、全く!」
「いや、俺はただ、場を和ませようとして……。」
冗談が通じない位、敵の気配は尋常ならざるものだったらしい。
凡人の俺は、それに全然気付かず。
結果、馬鹿にした感じになってしまった様だ。
ほれほれ、さっさと遣れ。
嗾けられた俺は、抗う事も出来ず。
仕方無く、力を行使した。
前方へ両掌を突き出し、精神を集中して。
小声でボソッと。
『敵の臭いよ、消えろっ!』
すると、シュッと軽い音がした。
それと同時に、敵の気配が消えたらしい。
驚いた様子で、ギャスがチラッと向こうを確認すると。
「……何も居ない。居ない、居ない!」
「へ?」
目を丸くする俺の両肩を、ガシッと掴むと。
ゆっさゆっさと身体を揺さ振りながら、興奮気味に。
ギャスが俺に、高揚した様子で訴える。
「凄いぞ! かなりヤバめの気配だったのに!」
「本当に居たの?」
怪しむサリエ、それもそうだ。
俺も、ギャスの言う事が信じられない。
それじゃあまるで、俺が消し去ったみたいじゃないか。
消し去った……あれ?
そう、そこで俺は気付いてしまった。
実際の臭いだけでは無く、〔気配〕や〔感じ〕の意味で使われる【臭い】さえも。
この力では、消せる事に。
それを証明する為に、俺は何度か。
他のグループメンバーのクエストに同行した。
その時嗅ぎ取った、〔罠の臭い〕や〔危険な臭い〕を。
俺は綺麗さっぱり、消して見せた。
ついうっかり、〔宝の臭い〕を消してしまい。
一攫千金のチャンスを台無しにして、大目玉を食らった事も有ったけど。
俺の力は段々、グループにとって必要不可欠になって行った。
危険な状況を、何のリスクも無しに回避出来るのだ。
冒険者にとって、こんなに有り難い事は無いだろう。
しかしそれが、グループを調子に乗せてしまった。
或る時、リーダーであるダリデが。
事も有ろうに、『魔王の直轄地へ調査しに行こう』と言い出したんだ。
普通なら『危ない』『止した方が良い』と、止めに入るんだけど。
俺の力の凄さに自信を持っていたダリデ以下、グループ総勢10名が。
俺を除いて皆、賛成したんだ。
わざわざそんな所へ飛び込まなくても、俺はそう言い張ったんだけど。
「俺は、お前を、信じてる。」
その一点張りで、ダリデに押し切られてしまった。
うな垂れる俺、現実主義者だった俺は。
呆れて物が言えない状態、それでも。
ダリデとその仲間達は、ズルズルと俺を引き摺る様に連れ回し。
本当に、魔王の出城と呼ばれる砦の前までやって来てしまった。
『帰りたいー』、内心そう願っている俺。
自分の死の臭いを嗅ぎ取った俺は、こそっと力で消して置いた。
逆に、自身に満ち溢れていたダリデ達は。
正面から堂々と乗り込むと言う、愚かな選択をした。
危険が待ち受けていても、俺が消し去ってくれる。
そう思い込んでいたのだろう。
しかしそれは、間違いだった。
俺が消せるのは臭いだけ、危険や危機其の物を除去する訳では無いのだ。
そしてダリデ達は、あっさりと全滅した。
ついでに連中の死の臭いを消しておいたお陰で、身体の一部を失うだけで済んだが。
代償は大きかった、もう冒険者としては遣って行けないだろう。
心配で付いて来ていた、仲の良かった他のグループによって。
皆は何とかギルドの有る町へと帰還し、治療を受ける事になった。
心のダメージは計り知れない、惨敗の記憶はトラウマとなって。
後々まで、苦しめ続けるだろう。
旅立つ前に必死に止めた俺を、非難する者は居なかった。
ただ、このギルドに居辛くなったのも事実。
俺はまだ、この力を使いこなせていない。
もっと修業すれば、きっと……。
そんな思いから俺は、ダリデ達の下を飛び出し。
一介の冒険者として、イリーガルスを放浪する事になった。
以上、これが。
異世界転移して間も無い時の、俺の話。
そして後に、魔王を討ち果たす事になる俺の。
旅立ちに纏わる話。
信じられないだろうが、事実なんだ。
何? 俺の話から、きな臭い香りがプンプンするって?
そんなの俺が、綺麗に消してやるよ。
この〔消臭力〕を以てな!
いかがだったでしょうか?
自分では、一発ギャグみたいな感じの話と思っています。
長編にする予定は、今の所無いので、
もし希望される方がいらっしゃったら、気長に待って頂けると有り難いです。
それでは、読んで頂きありがとうございました。
他の作品も、宜しくお願いします。