表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人間

作者: 柊鏡

人間


 キリスト教の聖人ピサロは、ある日悪魔に会った。

 彼は恐れ戦いて、逃げようとした。

 逃げようとする彼の背中に悪魔が言った。「何もしない」

「そんな筈はない。お前は悪魔じゃないか」

 強がってみたものの、声の震えを抑え切る事は出来なかった。

「悪魔だから、暴力は振るわない」

「嘘だっ!」

「悪魔は嘘を吐かない」

 しれっと悪魔は言う。

 ピサロは言った。「ならば――私を救けろ!」

 彼は道に迷っていたのだ。

「西へ進め。街に出る」

 ピサロは悪魔の言等信じなかった。

 わざと東へ向かったが迷うばかりだった。若しかしてはと思い、西へ向かい直すと、街に出た。

 街の門の前に悪魔が立っている。「本当だっただろう?」

「いや、これから騙す気なんだろう」

「そんな事はない」

 門の際に乞食の少女が座り込んでいるのをピサロは見つけた。

 少女は物欲しそうな目でピサロを見た。彼が肩から提げている鞄には、乾燥パンが詰まっていた。

「やらんぞ!」

「聖人なのに?」悪魔が揶揄すように言った。

 ピサロはムっとした。

「お前は――」

 悪魔が手を掲げた。

 すると天からパンが降ってきた。

「毒のパンだな」

「いやいや」

「ありがとう」少女はパンをぱくついている。毒が入っている様子はなかった。

 ピサロが言った。「如何してお前は悪魔のクセに、人間を救け、嘘も吐かず、暴力も振るわないのだ?」

 悪魔は口の端をあげた。

「嘘を吐き、人間を見捨て、暴力を振るってしまってはそれは悪魔じゃない。――人間だ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ