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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【読切版】突撃!となりの部屋キャン部

作者: 辛味亭

そのうち連載したいなぁ~~無理だけど♪


 今日も、『部屋キャン部』のお手伝いにやって来ました。

 ボク以上に可愛くて、背の低いボクよりも、さらに背の低い、双子の先輩に連れられてキャンプをするんですよ。

 そう、キャンプです。

 『部屋キャン』です。


 そして、その『部屋キャン』を楽しいモノにさせるひとつの要因は食事です。

 美味しさを『なかなかですね』と表現される食事に嫌気をさしたようで、双子の先輩はボクを『部屋キャン』に連れられていくんです。


 調理人としてね。


 日進月歩で、世の中便利なモノが増えていますが、調理に関しては、未だ…………いいえ、億…………兆単位のお金さえ積めば…………そう、『ブレイン・マシン・インターフェース』を使った『ブレインハック』とかの技術でなんとかなると思います。

 残念なことに、いくら科学が進歩しても、不治の病である重度のメシマズは根本治療は不可能なんですよ。

 だから、根本治療を諦め、『ブレインハック』して、別の人が身体をコントロールするしかないんです。


 まぁ、人をリモートコントロールするのに、数兆近い金額を掛けるならば、製作方法が失伝されたと言う擬似知能を組み込んだ人形(ドール)を買えば良いんですよ。

 現存する人形(ドール)軍用人形(アームドドール)しかありませんが、軍用人形(アームドドール)でも、都市制圧よりは苦手みたいですけど、料理くらい余裕でこなしてくれます。

 でも、そんな物騒なモノに…………痛っ痛っ…………って何でもないです。

 そんな素晴らしいモノでも、人形(ドール)は非常に高価なので、そこまで、お金を出せない人もいる。

 まぁ、普通は出せないですよね。


 素直にお手伝いさんやメイドを雇えば良いって?

 君、良いこと言ったね。

 そう、新し…………痛っ痛っ…………って何でもないです。

 悔しいかな、世の中、そんな簡単に、お手伝いさんやメイドを雇えないですよ。

 世界はボクに対して理不尽なんです。


 料理をしてくれる彼女を作れば良いって?

 そのセリフにあまり騒いで欲しくない血が少し騒いだ。


 『君、死にたいの?』




 こほん。




 こちらにも都合ってモンがあるんです。

 そう言うことにしておいて下さいね。


 本来なら、お手伝いさんやメイドを雇えるくらい実家もそれなりに裕福なんですけど、弟妹&異母弟妹だけで、数十万人もいると、お小遣いも少ないんですよ。

 そう、その人数で、野球チームどころか、身内だけで、都市が1つ出来ちゃいますからね。

 まぁ、実際、人数と言うより人口ですね。


 えっと、話がずれました。


 そう、お小遣いです。

 少ないお小遣いをやり繰りするために、双子の先輩に連れられて『部屋キャン』に来ているんですよ。

 超少ないお小遣いをやり繰りして買った食材を持ち出ししなくても、部活動が出来るんです。

 そうなんですよ。

 双子の先輩のお手伝いをすることで、ボクが1人で頑張っている部活動の料理研究会で必要な料理の素材が手に入るんです。

 最初は、双子の先輩たちが持ち込んだ食材を使って料理を作ってあげていたんですけど、今では、部屋キャン部の手伝いもさせられるようになっています。


 そんな感じで、いつものように、部室棟……その部室棟の中でも一際大きいスペースを取ってる部屋キャン部の部屋にやって来たんです。


 今日も、お日様がぽかぽかとボクらを照らす心地良い気温の日。

 本当に、良い部活(キヤンプ)日和です。


 とは言っても、部屋キャン部は、部屋から出ないので、そんなに外の天気は気にならない。

 そもそも、寮生活で、学園から寮までの移動には、全て屋根が付いている。

 ボクのお父さま…………いえ、お母さま方が大量の寄付金をしたことで、ボクが快適に学園生活と寮生活を出来るように、入園前から手を打ってくれていました。


 さすが私立…………そう、学校法人御鏡(みかがみ)が運営する高校の1つである『私立となり学園』。

 なので、徒歩で移動の際には、雨などを気にする必要が全くない。

 それに、気配を隠し切れていない警備(SP)の人たちがいるので、不審者にも気にする必要が全くないんですよ。


 ちなみに『となり』なのは、『歩が()なり(・・)、活躍するように、成長して欲しい』と言う願いと、『御鏡(みかがみ)家が帝室や政府のとなり(・・・)に並び立つモノ』と言う意味があるらしい。


「おーい、空馬(くうま)。準備は出来たか?」


 そう声を掛けてきたのは、部屋キャン部の双子の先輩の姉の方の『彩花(さいか) (さき)』先輩。

 呼ばれたのが、そう、ボクの今の名前である『空馬(くうま)』。

 フルネームだと、『真平(まひら)空馬(くうま)』だよ。

 お母さまの方の名字をこの国に合わせた形にしている。

 なぜ、そうしているかと言うと、ボクは身バレするとマズい留学生なので、帰国子女のフリをしているんです。

 ボクに何かがあると戦争…………いいえ、蹂躙が始まります。

 見た目上の戦力差は少なくても、全ての国に兵器を提供しているボクの祖国と敵対した途端に兵器に搭載されているブラックボックスが発動して、全ての兵力が無効化されます。

 つまり、ボクの祖国と友好的にしておかないと、この世界では国が成り立たないんですよ。

 まぁ、よっぽど、戦争…………蹂躙なんて起きません。

 バカなリーダーがいる国で無ければですけどね。


(さき)先輩、大丈夫です。準備出来てますよ。先輩たちから、借りている、アイテム収納リュックサックに調理道具とか全部入っていますから、それを背負うだけですからね」


 物質を別の空間に仕舞うことの出来るリュックサック。

 魔法というか科学というか、ハイブリッドな仕組みになっている。

 科学の力で魔法を使っているようなモノだ。

 もちろん技術は公開されていない。

 軽く考えただけでもいつか軍事利用出来るケースが…………って、すでにしてるけど、マッドなサイエンティスト禁制の男の子の夢、ロボットにも変形するエアバイクを仕舞っていたりする。

 ボクじゃないですよ。

 この国の軍……それも裏の部隊の人間がね。

 格好いいロボット…………それも変形するロボットは男のロマンだよね。

 ボクも欲し…………痛っ痛っ…………って何でもないです。


「それ、いいだろう~。(あおい)ねーちゃんご禁制のリュックだから便利なんだぞ。でも、身内以外にはやれねぇんだ。だから、ど~しても、欲しかったら、あたしと結婚しなよ~。そして、あたしのために毎日料理を作ると♪」


 (さき)先輩が『(あおい)ねーちゃん』と呼んでいるのは、この世界では知らぬ人はいないくらいの人物だ。

 そう、『真技(まぎ) (あおい)』さんです。

 超有名な『あおい特許事務所』の所長さんだ。

 バイクのレーシングチーム『あおいレーシング』のオーナーでもある。

 4年ほど前に、自動車とバイクのメーカーの『阿修羅(あしゆら)技研工業(ぎけんこうぎよう)株式会社』と『美星(みほし)自動車(じどうしや)株式会社』の長年に渡る因縁の解決に手を貸しているとも聞いている。

 『阿修羅(あしゆら)刃侖(ばろん)』氏と『美星(みほし)蔵三(くらみつ)』氏の握手した姿の写真が表紙を飾った号外新聞が出たほどだ。



 そして、この『部屋キャン部』を作った人物の義理の妹でもある。



「また、(さき)お姉ちゃん、抜け駆けしてぇ。空馬(くうま)くんはアタシと結婚するんだからね」


 そう言って、後ろからボクにぶら下がるように抱きついて来たのは…………痛っ痛っ…………って何でもないです。

 そうです。

 (さき)先輩の双子の妹、(もえ)先輩です。

 そう、『彩花(さいか) (もえ)』先輩です。


 (さき)先輩や(もえ)先輩の実家になる彩花(さいか)家は、700年ほど遡っていくと、うちの実家に繋がる。

 うちの実家の分家に彩花(さいか)家があり、その分家がさらに分かれて海を渡った彩花(さいか)家が(さき)先輩や(もえ)先輩の実家になる。

 海を渡った彩花(さいか)家は、御鏡(おかがみ)家と本家分家みたいな協力体制になっていて、その御鏡(おかがみ)家にも、ボクの………………いえ、実家から婿や嫁を出しているので婚姻関係にあるとも言える。

 まぁ、そんなこと言っていたら、世界中のどの名家とでも、関係があるようなことになる。

 それだけ、うちの実家の家族は多いんですよ。

 実際、お父さまのお嫁さんやお妾さんの数が両手両足じゃたりないくらい尋常じゃないから、こう状況になっている。

 困ったことに、まだ、その名だけの新宿の種馬どころか世界の種馬のお父さまは現役バリバリなんですよ。

 そして残念なことに、女にだらしないお父さまの血の半分がボクにも流れている。


 また、話がずれました。


 そうです。

 そう、部屋キャン部です。

 部屋キャン部の話です。


 真技(まぎ)(あおい)さんの義理のお兄さんでもあり真技(まぎ)(あおい)さんの影武者でもある真技(まぎ)賢人(けんと)さんが作った部屋キャン部は、裏の社会の人間を効率よく育成するための部活なんですよ。

 御鏡(みかがみ)家……そう、真技(まぎ)賢人(けんと)さんや真技(まぎ)(あおい)さんを始め、その分家の人間は全て裏の社会の人間である。


 つまり、部屋キャン部の部員やOB&OGは全て裏の人間ってことになる。


 えっ、ボク?

 ボクは、表の人間だよ…………真平(まひら)の性を名乗っている限りはね。

 そう、帰国子女……『真平(まひら)空馬(くうま)』は、ごく普通の一般人なんですよ。

 そもそも、部屋キャン部の部員じゃないですしね。



 『同じ釜のメシを喰ったんだから、家族も同然だし、あたしの将来のお婿だからな』



 と言う建前で、ボクも部屋キャン部の活動に参加しているんだけです。

 実際は、活動中の部室の鍵が閉め忘れられていて、ボクも活動に巻き込まれたんですよ。

 そして、そのまま、ズルズルと…………。


(もえ)の寝言は放っておいて………………」


 (さき)先輩の少し目を細めるようにまぶたに力が入った。

 セリフの途中で、他のことを考えているようだ。


(さき)お姉ちゃん、ひっど~い」


 (さき)先輩の目がキョロキョロと動いている。

 網膜走査ディスプレイを操作しているんだろう。

 ちなみに、この網膜走査ディスプレイはうちのマナお母さまが作ったんですよ。

 魔道具には欠かせない魔法銅に神が作ったと言われているGUNGALと言うOSを組み込み、その魔法銅を編み込んである下着に、『Handy Terminal Magic Language』、通称HTMLと言う魔法言語で書かれた網膜走査ディスプレイがインストールしてある。

 この膜走査ディスプレイは、視線と思考で操作出来る優れモノだ。

 そして、この下着を販売しているのがボクの実のお母さま…………シーターお母さまの会社『シーター・ランジェリー』が全世界の4割のシェアを占有している。


 ですので、もうちょっと甘やかして下さいね。

 10倍とか言いません。

 9.9倍でも構いませんので、もう少しお小遣いを上げて下さい。


 もっとお小遣いが欲しかったら、自分で働きなさいって言われてるけど…………働いたら負けじゃなくて、まだ、そこまで、心の準備が出来ていません。


「設定完了。さて、『部屋キャン』始めるぞ~!」


 『始めるぞ』の部分だけ、スタッカートで素早く響かせる発声で元気な声を上げ、右手の拳骨を天に掲げて、そう宣言する(さき)先輩。


「は~い」

「はい」


 ボクの網膜走査ディスプレイに確認メッセージと『はい・いいえ』の見慣れたボタンが表示された。


 もちろん、いつものように手慣れた感じで『はい』のボタンを押しました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 目の前の確認メッセージが消えると同時に景色が変わった。

 部屋の中から、部屋の外…………いいえ、屋外です。

 部屋の外だから屋外って言うんじゃ?

 それはそうですけど、違うんです。

 そう、一瞬(いつしゆん)で、部屋の中から、外の世界の屋外に移動したんです。

 それも、ヴァーチャルな世界ではなく、実在する元いた世界から、外の世界の屋外…………そう、異世界の屋外なんですよ。


 ここまで言えば分りますよね?


 さて、先ほどの確認メッセージは、何の確認メッセージだったかと言うと、『異世界に転送します。よろしいですか?』です。

 そう、部屋キャン部は、部屋にいるモノを異世界に転送して、異世界で殺戮を繰り返し、サクッとレベルアップしちゃおうという部活動なんですよ。


 えっ、ボク?

 ボクは、荷物持ち…………いいえ、さっきも言ったように、調理人ですよ。

 超機密扱いのアイテム収納があるので、荷物持ちは不要。

 ただただ、この異世界で料理を作るのがボクの役目なんですよ。



 ボクはゆる~く部屋キャンを楽しんでいれば良いんです。

 大好きな料理を作りながらね。



 だって、ボク、総員1名の料理研究会の会長なんです。

 戦闘なんて、殺りたい人にやらせておけば良いんですよ。

 偉いさんにはそれが分らないほど脳筋なんです。

 本当に、ボクにとって数えるほどしかいないボクの祖国のお偉いさんは、脳筋に近い人ばかりです。

 世界の英知と称えられているクリシュナ・マテリアル社の社長のクリスお母さまなんて、脳筋の代表ですよ?

 なんで、世界の英知と称えられているか分からないです。

 世界の七不思議のひとつです。

 お父さまを筆頭に、うちの身内のほとんどは考える前に動いちゃいますね。

 だから、お嫁さんやお妾さんの数が尋常じゃないんですよ。

 なんで、3桁もいるんですか!?

 それも、4桁に近いじゃ無いですか!!



 ひっ、ひっ、ふう、ひっ、ひっ、ふう…………………………。



 ボクの手当たり次第に女の人に手を出す女にだらしないお父さまの恥ずかしい話はともかく…………。


「今日の目的はお肉なんですよね?」


 今更ながら、今日の予定を確認しておく。

 まぁ、いつもお肉なんですけどね。


「「そうよ」」


 2人とも、両手で拳を作ってまでの力の入った返答だ。


「そう、そう、そう、そう、お肉よ。お肉~~~」

「やっぱり、お肉、お肉、お肉よ~~~」


 ああ、いつものようにあっちの世界に行ってしまわれた。

 このぽわぽわした笑顔には心癒される~~。


「先輩たち、よだれ、よだれ、よだれ」


 でも、心癒される時間は、刹那の時間しかない。

 本当に、学園の1,2位を争うアイドルとは思えない表情です。


 なぜか、3位はボクになっていますけど?


 そんなトリビアはともかく、いつものように2人の涎を吸水性抜群の今治のタオルハーフハンカチで拭いてあげる。

 もちろん、(さき)先輩用、(もえ)先輩用と別に今治のタオルハンカチを準備してありますよ。

 2人の先輩には内緒ですけど、ボクはアイテム収納魔法を使えますから、今治のタオルハンカチを大量に準備してあるんですよ。

 お小遣いは少ないけど、これくらいは実家が準備してくれます。

 2人の先輩のためですから、できれば自分で準備したかったんですけどね。


 この2人の先輩が身分に関係なくボクに好意を寄せてくれてるのは…………胃袋をがっちりと掴んだからでしょうね。


 ボクはボクでこの2人の…………ほんの少ししか見せてくれないさっきみたいな無防備な笑顔に心惹かれているのだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「香辛料が心もとないので、少し補充したいです」


 2人の先輩たちに提案する。


 たかが香辛料、されど香辛料。

 学生…………そう、学生で、収入源はお小遣いだけの身分では、香辛料1つ買うのも大変なんですよ。

 お、お年玉が使えれば…………貯金しておくわねって、いつも巻き上げられるんです。

 そうだ!

 そうです。

 余計なことを思いつきました。

 その辺にある金目のモノ…………骨董品の2人を好事家に売れば、邪魔者もいなくなって…………痛っ痛っ…………って何でもないです。


 お肉が目的な訳ですから、塩だけでも美味しいのもあるんですが、獣臭さを消さないと食べたくないモノあります。

 目的が肉ってだけですので、念のため香辛料を補充しておきたいんです。


「森に入るか…………街で買うか……ドロップ品を狙うか…………どうする?」


 さすが、リーダー役の(さき)先輩です。

 普通に考えれば、無難な三択です。


 森に入って香辛料を採取する……香辛料があるポイントが分かっていれば、手っ取り早いです。

 なぜか魔物を倒すとゲームのようにアイテムがドロップするんです。

 だって、ここは異世界ですからね。

 なんでもありのようです。

 2人の先輩たちが言うには、倒した敵を解体するのが面倒なのでアイテムがドロップをする異世界を選んでいるとのことです。


 さて、三択の女王は、どの選択肢を選ぶか………………。


「ドロップ品狙いだね」

「ドロップ品だよね」


 やっぱり、その選択しかないですよね~。


 森に入っての採取の場合、2人の先輩たちの立場は護衛の意味が強くなるので、戦闘は補助的な意味合いが強い。

 街で買うに至っては、戦闘は皆無で、街のチンピラに絡まれたときくらいにしか戦闘は無い。


 戦闘メインでガシガシとガチでヤれるのは『ドロップ品狙い』しかないんです。


 そう、この2人、いくら可愛くても、どんなに可愛くても、この2人は戦いたいだけのバトルジャンキーな脳筋なんですよ。

 先輩たちは、そういう血が流れている一族なんです。


「分かりました。ドロップ品を狙いましょう」


 その選択にケチを付ける気もありませんし、いくらボクが反対意見を言っても覆りませんので、素直に肯定しておきます。

 反対する時間が勿体ないですからね。


「は~い」

「はい」


 お父さまとお母さまの容姿を足して2で割ったような容姿をしているボクが人のことは言えないが、めっちゃ可愛い容姿の2人だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おやつ~はまだか~」

「おやつ~♪ おやつ~♪ おやつ~♪」


 森の中を小一時間ほどの戦闘で、

 結構な素材やアイテムがドロップした。

 そのドロップ品の中に、目的の香辛料もあり、必要数も手に入った。


 レジャーシートの上で、ぐで~っとして、すっかり休憩モードの2人。


「メイプルシロップがドロップ品にあったので、スコーンなんてどうですか?」


 ティータイム用に、スコーンやビスケット程度なら作り置きがある。


「スコーンだ~」

「スコーン~」


 OKみたいです。

 アイテム収納リュックサックからスコーンを出すフリをしてアイテム収納魔法で収納しておいたスコーンを取り出した。

 もちろん、2人が好きな作り置いてある熱々のココアが入っているポットも一緒に取り出しています。


「ココアだ~」

「ココア~」


 あ、うん、まるで、幼稚園のおままごとみたいです。

 でも、2人の先輩とのこう言った時間は大好きです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 初めて入った石造りの建造物の中はまだ肌寒い。

 いや、この石造りの建造物の中はずっと天然の空調が効いているから、いつだってこんな感じの室温だろう。


 2人の先輩が肉を食べたいと言ったから、廃墟マニアでも近寄らないようなこの建造物の中に入った。

 この石造りの建造物に入った理由は、部屋キャンのガイドブックに、この石造りの建造物の中に美味しい肉があると明記されているからだ。


 そんな肌寒い建造物の通路のL字の部分を陣取ってキャンプを張った。

 そして、2人の先輩が食材を狩るのを、ボクは火を熾し、暖をとって待っている。



彩花(さいか)流、奥義・千裂斬(せんれつざん)!!」



 可愛らしい声で、可愛らしい姿で、非道な技名が発せられ、建物内に響き渡った。

 まるで踊っているかのようにしか見えないが、両手に持った刀で相手を滅多斬りにする技だ。

 肉も骨も関係なく、どんどん、切り刻まれて、肉片と骨片がまわりに飛び散っている。


 切り刻まれる相手さえいなければ、このソードダンスのような刀の舞をいつまでも見ていたい。


「あ~あ、(さき)先輩、そんなに切り刻んだら、食べるとこ無くなっちゃいますよ」


 いくらアイテムはドロップ品で出ると言っても、残った部位をベースにドロップするので、これだけ切り刻まれると、まともなドロップ品は出ない。

 ドロップ品を最大限ドロップさせるには、即死(デス)魔法とか、なるべく傷つけずに倒すに限る。

 それを2人の先輩に要求するのは酷なことだ。


「だって、こいつら、弱いんだから、こうでもしないと、することがすぐに無くなっちゃうじゃん」


 確かに(さき)先輩が言うことには一理あります。

 でも、今日は、お肉を集めに来ているんです。

 効率を考えれば間違っているんですよ。


(さき)お姉ちゃん、アタシの分も残しておいてよ」


 そう言って、詠唱を始める(もえ)先輩。

 本来なら、詠唱は必要ないが、気分を盛り上げることで、魔法の効果が上がるらしい。

 何事も気合いです。


「集え、集え、集え、我が拳に魔法の源よ。唸れ、唸れ、唸れ、我が紅蓮の炎よ。我が行く手を遮る敵を焼き尽くせ! 爆炎龍降臨!」


 魔法は2種類ある。

 一般的な魔法に見える魔法と、廃れてしまって一部しか伝承されていない魔法。


 前者は、簡単に言うとバーチャルリアリティの魔法。

 課金させすれば、使える魔法…………魔法学校で教えているのがこの魔法だ。

 ただし、異世界では全く通用しない。

 だって、バーチャルリアリティの魔法だからね。


 (もえ)先輩が使っているのは、異世界しか通用しない後者の魔法。

 いや、元の世界でも通用するが、魔法銅を編み込んである下着の周囲は、後者の魔法の効果がキャンセルされるようになっている。

 そのため、覚えても効果の全くない後者の魔法を学ぶモノは少なくなり、例外を除き、ボクの祖国以外の魔法使いはほとんどいなくなった。

 想像が付くと思うが、御鏡(みかがみ)家とその分家は例外だ。

 御鏡(みかがみ)家とその分家には仙術として一部魔法が伝承されていたが、異世界帰りの『真技(まぎ) (あおい)』さんが、魔法を復活させてしまったんだ。

 マジヤバくねぇ?

 そう、正直、マナお母さまを凌駕する部分がある『真技(まぎ) (あおい)』さん、マジやばい。

 御鏡(みかがみ)家が悪い方に倒れない限り、敵対することはないだろうが、もし、そうなった場合、真っ先に狙われるのは『真技(まぎ) (あおい)』さんだろう。


(もえ)先輩も、そんな魔法、オーバーキルです。食材がドロップしなくなっちゃいますよ」


 切り刻むのも無しですが、炭にするのも無しです。


「お肉はベリーウェルダンに限るし~~」


 可愛く言ってもダメです。


「いや、ドロップ品は、焼けた状態でドロップされませんから、逆にそこまで、焼いちゃうと、全くドロップ品がドロップしませんよ」


 今日は、部活動で、ミノタウロス狩りに来ているんです。

 美味しいお肉……美味しいお肉……美味しいお肉がドロップするはずなのに無駄になっていく…………。


「大きいお肉、見っけぇ~~~」


 確かに大きいお肉だ。

 いや、今まで倒したミノタウロスとは思えないくらい大きい。

 まるで違う種族としか思えない。

 でも、ミノタウロスにしか見えない。

 一回り大きなミノタウロス…………ユニーク個体か?


 ボクがその判断に迷っている間に、さっきまでと同じ調子でたたたたたっと不用意に近付いて攻撃をしようとする(さき)先輩。

 それに反応して、最初っからトップギアに入ったような動きで、(さき)先輩を獲物と判断し、攻撃を開始した一回り大きなミノタウロス。



     ドゴッ



 一回り大きなミノタウロスの思いのほか速い動きに、この場、全員の反応が遅れました。


(さき)先輩~!」


 その極マレに現れるユニーク個体が、力任せに(さき)先輩をぶっ飛ばした。

 (さき)先輩がぶつかった勢いで冷たい壁がひび割れた。

 重力に負けて、床にずり落ちていくだけの意識が無くなった(さき)先輩…………そして、壁にぶつかったとき、(さき)先輩の頭があった場所に血が…………。


(さき)ちゃんっ!」


 一瞬で怒り状態になった(もえ)先輩。


「この牛野郎め。この紅蓮の爆炎に焼かれてしまえ~!」


 魔法を起動させれば良いのに、格下相手に言うように、いつもの格好いいセリフを言うクセが出た。

 危険を察知したのか、ミノタウロスは、自分の斧を(もえ)先輩に向けて投げ出していた。


(もえ)先輩、避けて~!」


 遅かった。

 声を掛けるタイミングが少し遅れた。

 そして、ボクの声に気を取られ、(もえ)先輩がボクの方を振り向いた。


 持って行かれた。

 持って行かれたんだ。

 ミノタウロスが投げた斧が、(もえ)先輩の右腕を丸々持って行った。

 そして、(もえ)先輩の意識も…………。


 2人に近寄りたいが、ミノタウロスと対峙したままだ。

 ここで、スキを見せるわけにはいかない。


「桜、たんぽぽ」


 ボクは、奥の手を呼んだ。

 本来なら、この世にいないことにしておかないといけない2人。

 その割には、いつものように、今日も、ことあるごとに、ボクに突っ込みを入れてた2人だ。


「すいません。マスターの守りを優先して、対応できませんでした」


 陰でボクを護衛している現存する軍用人形(アームドドール)の1人であるフラワーズの(さくら)


「ごめんなさいです。桜ちゃんが、マスターの守りを譲ってくれないから~」


 同じく、陰でボクを護衛している現存する軍用人形(アームドドール)のフラワーズのたんぽぽ。

 軍用人形(アームドドール)の2人は、クーお母さまの妹のジィッタ叔母さまの旦那さんから800年ほど前に貰ったんです。

 ボクの護衛として…………だから、2人の先輩たちの安全まで確実に守れとは言えません。

 (さき)先輩も(もえ)先輩も、(さくら)やたんぽぽから見れば、ボクたちの家系とほんの少し血が繋がっているかも知れませんが、異国の地の赤の他人なんです。

 ボクと(さき)先輩と(もえ)先輩がお互いに少し惹かれていてもです。


「2人とも息はあります」


 気配から生きていると思ったが、言葉で聞くと安心する。

 ボクはユニーク個体のミノタウロスを睨み付けて牽制し、たんぽぽは、普通のミノタウロスを牽制している。


【捕縛】


 戦線離脱し、瀕死で、意識を失った咲先輩と萌先輩を、捕縛魔法で異次元回廊に収納する。


完全回復(パーフェクトヒール)】&【修復(リペア)


 異次元回廊にいる2人の身体や装備を元通りに回復させた。


睡眠(スリープ)】&【記憶改変(コリエイト)


 しばらく起きないようにしておく。

 念のため、記憶操作も忘れない。


 分かっていたと思いますが、ボクの実家も例外です。

 古くから伝わる魔法、新たに出来た魔法も使えます。


 魔法銅を編み込んである下着の周囲でもキャンセルされずに使える魔法です。


「これで安心です。さて…………」


 2人の先輩の血を見て、血が騒いでいた。

 容姿が変わるほど、普段は押さえている血が騒ぐんだ。

 ボクの血の半分を締めているお父さまの血が…………。


 シーターお母さま譲りの金髪と青い目の色が失われていくのが分かる。

 そして、女にだらしないお父さまにそっくりになっていく。

 そう、金髪が銀髪に、青い目が赤い目に変わった。


 これが本来のボクの姿。

 千年、国王が空位になったままの王国…………フルフラット王国、王位継承権第1位、クーヤ・オトメの姿です。


 みんなには内緒ですよ。

 (さき)先輩や(もえ)先輩にも、まだ内緒なんですからね。


「部活では自分の力を使う気はありませんでしたけど、ちょっと、オイタが過ぎましたね」


 アイテム収納から、2本の神珍鉄性の青い短剣を取り出した。

 お父さまから譲り受けた神さまから下賜されたと言う神具である。


「楽に死ねると思わないことです。…………いや、楽に殺して差し上げましょう。極限まで、ドロップ品出るようにね。後で美味しく頂いてあげますね」


 生まれてから千年以上も、乙女(おとめ)流の稽古を続けているんです。

 きちんと戦闘用のスイッチさえ入れていれば遅れを…………(さき)先輩や(もえ)先輩といるときは…………大事な人が傍にいるときは、常に遅れをとらないように稽古のやり直しです。


「さて、桜、たんぽぽ…………蹂躙を始めますよ」


 久々の戦闘…………蹂躙です。


「了解です」

「は~い」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あれ? 寝ちゃってた? ミノタウロスは?」


 予定時間に(さき)先輩の目が覚めた。

 ミノタウロスたちを倒した後、スコーンを食べた場所に移動しました。


「ん、おはよ。あ、あれ? 腕がある? それに、大っきくて、美味しそうなミノタウロスは?」


 いくら記憶改変(コリエイト)魔法で記憶改変(コリエイト)しても、強烈な記憶は改変出来ないようです。


「2人とも、寝ぼけているんですか? (さき)先輩も、(もえ)先輩も、スコーンを食べ終わった後、『おなかいっぱ~い』とか言って寝ちゃったんですよ。お肉食べたいって言ってたから、ミノタウロスの夢を見たんじゃ無いですか? でも、2人で同じ夢を見るなんて、さすがそっくりな双子の先輩です」


 てきとーな話で誤魔化します。


「よく寝てたから、お腹空きませんか? 美味しいお肉があるんですよ。コメーリカンなバーベキューにして、一緒に食べましょう。あれ? (さき)先輩、(もえ)先輩、お肉、食べないんですか?」


 そして、食べ物で釣っちゃいます。


「お肉よ。お肉~~~」

「お肉、お肉、お肉よ~~~」


 (さき)先輩や(もえ)先輩の2人は、超ちょろいんであり、腹ぺこキャラです。

 ですので、誤魔化すのは簡単なんですけど、あっちの世界にすぐ行ってしまうのが難点です。


 さて、今日はギリギリ助けることが出来ましたけど、このぽわぽわした笑顔を失うところでした。

 その笑顔を失いたくない…………今日、強く、そう思った。


 そして、確実に守るためには、ボクの立ち位置をはっきりさせないといけない。


 そう、クーヤ・オトメとして………………でも、働きたくないでござる。



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