表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/65

近づく死刑宣告

 あれから月日は流れ、クレアシオンは四歳になっていた。彼は毎日、毎日サラやアニスの目を盗んでは魔力を使って、保有魔力量や魔力操作の精度を上げていた。体が動かせないので、魔法を鍛えていたのだ。


 同じベットには、義姉のエレノアがいたので、属性魔法が使えないでいた。だから、彼が使える魔法は無属性魔法のみだった。


 ある程度、体が動かせるようになると、武術を鍛えて始めた。何千年も絶えず鍛えて、繰返し繰返し、身体に染み付けていた技術、それらを今の体で再現していく。


 まずは、体術から、武器を失った時、対応できるように、また、全ての動きに通じる物があるから。それから、各武器の型をそれぞれ繰り返していく。


 そのあとは、違う武器に変える時の繋ぎの動きを繰り返していく、これがクレアシオンの強みだから、武器を変えた瞬間、動きが変わる。


 相手にこちらの動きを読ませないために、対策をたてられないように、そのためには一瞬で切り替える必要がある。そして最後に――。


 エレノアに引きずられて、おままごとの相手をさせられていた。お題はいつも『夫婦』だった。


 アニスとサラの真似を二人でしていた。サラは、キャーキャーと悶えて、アニスは苦笑いをしていた。長寿のエルフは二十歳ぐらいから老が遅くなり、長寿故に子供が少なかった。


 なので、村には子供は二人しかおらず、エレノアの遊び相手はだいたいクレアシオンだった。


 本当は遊ぶより、鍛えていたかったが、彼の初めての家族――クレアシオンの最も古い記憶はアリアで、それより昔の記憶はない――なので、まんざらでもなかった。かといって、鍛練を怠った訳ではなかった。


 朝起きては土属性魔法で武器を作り、それぞれの型を一通りし、昼は体術を、夜は気を失うまで魔力を使っていた。彼は最初は【鬼神化】と【九尾化】しか持っていなかった。


 確かにこの二つは強力だが、魔族、邪神、神たちは生まれながらに特殊なスキルを持っている。他の天使や勇者は神に強力なスキルを与えられる。


 しかし、クレアシオンは体が変化するだけ。それも、相反する二つの存在に、彼はただひたすら鍛えて他の存在を越えてきた。


 今回、鍛えるのは【勇者】だ。人を魔王に対抗させるために、天使より強力なスキルや祝福を受ける存在。それを鍛えながら、邪神を倒さないといけない。


 彼より成長率のいい存在だ。単純な身体能力では直ぐに抜かれるかも知れない。まあ、身体能力は【暴食】で少しは補えるが。


 鍛練中にエレノアに捕まりつれ回されたり、おままごとをしたり、お花摘みをしたり、神界にいたときの彼を知るものが見たら絶句しただろう。


 女神フローラは、彼の成長を見守り(ストーカー)、その様子を六歳の【聖女】に話していた。


◆◇◆◇◆


 クレアシオンは焦っていた。というのも、五歳になると、教会に行き、神託の儀で自分のステータスを鑑定してもらうのが、この世界の習わしだと、先程アニスから聞かされたからだ。


 この時職業があれば、それは天職で神に認められた職業だという。この時に職業がなくても、十五歳の時にもう一度、神託の儀があり、その時に一番向いている職業が与えられる。つまり、どういう事かと言うと――。


「――天職魔王ってどういう事だよ!!」


 こういうことだ。彼は毎日、毎日、隠蔽を取得しようとしていたが出来ないでいた。まず、どう練習したらいいかわからないでいた。


「ねえ、ねえってば!!」


 彼は肩を揺らされて顔を上げた。そこには整った可愛らしい女の子が顔を膨らませていた。


「なに?エレノア……」

「もう!いつもいってるでしょ!おねえちゃんってよんでよ!!」

「歳も変わらないし、いいじゃん」


 彼女はクレアシオンに「エレノアお姉ちゃん」と呼んで欲しかったが、クレアシオンが頑なに呼ばないでいた。


「もう……。それより、しんたくのぎ、たのしみだね!!」

「う……うん」

 

――いえない。その日、超逃げたいなんて……。


「その日は、……腹痛の予定が入っています……」


 苦しい。だが、彼にはこの苦しい言い訳しか絞り出せなかった。


――行けるか?通じるか?


 と、いう彼の願いは虚しく。


「なにいってるの?それより、クレアのおかしおいしいから、こっくさんかおかしやさんのしょくぎょうあるとおもうの」


 エレノアは眩しい笑顔でそう言った。


――いえない。天職魔王なんて言えない。お前が母さんと父さんの読み聞かせで怖がって抱きついてきてる俺が魔王だなんて……。


 エレノアはクレアシオンの作ったお菓子が大好きだった。少し前、クレアシオンは森で卵とハチミツを手に入れ、彼は焼き菓子を作っていた。魔族の爪痕が残る中、卵やハチミツなどの甘い物は高級品だった。


 甘党の彼には甘い物がないことに我慢できず。森の中に飛び出し、鳥の巣から卵を奪取して、蜂からハチミツを奪取していた。


 森の中をダッシュして奪取していた。


 その頃、クレアシオンと遊ぼうと探し、彼がいない事に気がつき、エレノアは泣きながら彼を探していた。その事にジェフたちが気づいて、村中を探しまわった。


 昼を過ぎ、アニスたちがまさか、森に迷い込んだのでは?と考え出したとき、クレアシオンが森から黒いスライム――アレクシスに乗って帰ってきた。


 卵とハチミツと果物をたんまりと抱えて、ホクホク顔で帰ってきたのだった。それを見てジェフたちは安心したような、呆れたような顔をしていた。


 アニスからは拳骨を落とされ、サラには正座で説教され、エレノアには泣きつかれ、クレアシオンはそれから家の周りでしか鍛練しないようにしている。


 本当は自分の分を作ったあとはアイテムボックスに保存しようとしていたが、ジェフたちには迷惑を掛けたため、焼き菓子を大量に作って配ることにした。


 サラには危ないから駄目だと言われたが、なんとか許可を貰い作った。ジェフたちはクレアシオンの作った焼き菓子を食べて感動した。この時代、大きな都市でないと、お菓子など食べる余裕がない。甘味と言えば、木の実ぐらいしかなかった。


 ジェフたちは焼き菓子はこれほど美味いのか?と考えたがそれは違う。【甘党】、【遣糖使】の称号を持ち、ユニークスキル【暴食】の【食道楽】を有する。【食の守護天使】と呼ばれ――――たかったクレアシオンが作った物だ。


 数千年、下手したら武術や魔術よりも力を入れて洗練させたかも知れない、極上の焼き菓子だ。まずい訳がない。


 彼らは大きな都市に行き、大金を叩いてお菓子を食べてもガッカリするだろう。格が違う。これが【食の大魔王】と言われる所以だったりする。


「わたし、クレアのおかしだいすき!!」


「俺も好きだよ。美味しそうに食べるエレノアの顔」


 そう言うとエレノアは顔を赤くし、もじもじとする。クレアシオンは食べるのが好きだが、自分が魂を込めて作った物を美味しそうに食べている人の笑顔が好きだった。それに――


「嫌いな野菜が入っていたって、食べ終わったあとに知った時のエレノアの絶望した顔も好きだよ」


 そう、嬉しそうに前を歩くエレノアに聞こえないように呟いた。多分神界でのクレアシオンを知る者たちは「クレアシオンが正気を取り戻した!!」と喜んでいるだろう。


 サラは野菜を食べないエレノアに苦労をしていた。その時、クレアシオンが野菜をお菓子に入れる事を提案し、サラはエレノアの嫌いな野菜を五種類渡した。


 その様子はまるで裏取引の様だった。二人の顔を見てアニスは震えていた。だって、すっごく悪い顔してたもん。


 エレノアは色とりどりの野菜入りのパンケーキに目を輝かせて美味しそうに完食した。そして、お腹一杯になって、ニコニコとご機嫌な彼女にクレアシオンとサラは真実を告げる……。


 アニスは言わなくてもいいじゃんと、言おうとしたが、それではエレノアのためにならないと言われ押し黙った。何か――何でそんなに笑顔なの?――言いたそうにしていたが……。


 エレノアの笑顔が凍りついた。信じていた者たちからの裏切り、その事に涙目になっていたが、その顔は可愛かった。こうして、エレノアの嫌いな物が減って、クレアシオンに対する信用がなくなった。これも、エレノアの健康のためだ。他意はない、ないったらない。


 前を歩くエレノアの背中を見ながら、近づいてくる神託の儀をどうするかクレアシオンは考えていた。


「あっ……!!眷属創造……」


 クレアシオンは大事なユニークスキルの存在を忘却の彼方にフライアウェイしていた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ